トランプ米大統領が近く予定する習近平国家主席との首脳会談に、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)とNvidiaのジェンスン・フアンCEOが同行する見通しとなった。この異例のビジネス随行が明らかになった19日、両社の株価はそろって上昇し、ハイテク株全体の買い戻しを誘導した。貿易摩擦の緩和期待に加え、中国市場での事業拡大が現実味を帯びたことが直接の買い材料となっている。
時価総額上位2社のCEOが異例の同行
事情に詳しい関係者3人への取材で、マスク氏とフアン氏がトランプ大統領の訪中団に民間企業代表として加わることが判明した。時価総額で世界1位と2位を争う企業のトップが同時に首脳外交の場に同席するのは極めて珍しい。19日の米国市場でテスラ株は前日比4.2%高の248.37ドル、Nvidia株は3.8%高の1,042.61ドルで取引を終え、両社で時価総額が約1,100億ドル積み上がった。
マスク氏はテスラの上海ギガファクトリーで年間生産能力を95万台超に拡大しており、中国売上高は2024年度に210億ドルを突破した。フアン氏率いるNvidiaも、中国向けに米国輸出規制に準拠した専用AI半導体「H20」を年間120億ドル規模で供給している。両社にとって中国は単なる製造拠点ではなく、売上の2割前後を稼ぐ最重要市場である。
首脳会談がハイテク株の試金石に
今回の株高の背景には、首脳会談を契機とした米中関係の部分的な雪解け期待がある。トランプ政権は対中追加関税を巡り強硬姿勢を崩していないが、AIや電気自動車(EV)分野では米企業の市場アクセス維持が国益に直結するため、一定の取引が成立するとの観測が広がる。
モルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナス氏は19日付の投資メモで「両CEOの帯同は、ホワイトハウスがテクノロジー企業の中国事業継続を事実上容認するシグナルだ」と指摘した。同氏によると、テスラの場合、完全自動運転ソフトウェアの中国での認可取得が2025年後半に前倒しされる可能性があるという。
一方で、半導体規制の行方はなお不透明だ。NvidiaのH20チップは現行規制の枠内で中国輸出が認められているが、議会内の対中強硬派は規制強化を求めており、フアン氏の訪中が逆に議会の反発を招くリスクも市場では意識されている。
自動車・半導体セクターに波及
両社の株高は同業他社にも波及した。19日の取引では、米半導体大手のAMDが2.6%高、クアルコムが1.9%高となり、フィラデルフィア半導体指数は前日比2.1%上昇した。EV関連ではルーシッド・グループが5.3%高、中国の比亜迪(BYD)の米国預託証券(ADR)も3.2%高で引けている。
調査会社テックインサイツのチップ・アンダーソン氏は「今回の上昇はファンダメンタルズの変化よりセンチメント先行の色彩が強い」とくぎを刺す。同氏の試算では、仮に中国向け半導体規制が現状より厳格化された場合、Nvidiaの年間売上高は最大で80億ドル減少するリスクがある。
為替と日本企業の立ち位置
日本市場への影響では、アドバンテストや東京エレクトロンといった半導体製造装置メーカーの株価が20日の東京市場で反応するかが焦点となる。これらの企業はNvidia向け受注高が連結売上高の10〜15%を占めるケースもあり、米中関係の緩和が日本企業の輸出環境を間接的に押し上げる構造にある。
SMBC日興証券のシニアアナリスト、牧野健太郎氏は「即効性のある素材とは言えないが、Nvidiaの増産計画が鮮明になれば日本企業の受注残高に2025年央から反映され始める」と分析する。
実需と投機の狭間で続く綱引き
19日の上昇を受け、NvidiaのPERは42倍、テスラは76倍と、依然として業績期待を大きく織り込んだ水準にある。オプション市場ではコールオプションの未決済建玉が直近1週間で12%増加しており、投機筋の短期売買が活発化している。
市場関係者の間では、今回の首脳会談が実質的な成果を伴わなければ、足元の上昇分が急速に剥落するとの警戒感が根強い。ミラー・タバックのストラテジスト、マット・メイリー氏は「CEOの随行は対話の入り口に過ぎず、具体的な関税緩和や許認可の進展を確認するまでは本格的な評価替えは難しい」と述べ、過度な期待を戒めている。