人型ロボットを開発する米フィギュアAI(Figure AI)のブレット・アドコックCEOは、同社ロボットの動作試験を巡り「遠隔操作は一切行っていない」と明言した。数百万回再生された仕分け作業のライブ配信映像に対し、一部で遠隔操作ではないかとの疑念が浮上したことを受けた反論だ。
生配信で仕分け実演も疑惑浮上
フィギュアは人型ロボット「Figure 02」が物流倉庫内で荷物を仕分ける様子を、ユーチューブとX(旧ツイッター)上でリアルタイム配信した。配信は合計で数百万回視聴される注目を集めたが、ロボットの滑らかな動作に対し「人間が遠隔操作しているのではないか」との声が一部で上がった。
アドコックCEOはブルームバーグ・テックの取材で「当社のロボットは完全に自律動作しており、テレオペレーション(遠隔操作)は試験に含まれていない」と述べ、疑惑を真っ向から否定した。フィギュアのロボットは搭載されたAIモデルがカメラやセンサーからの入力をリアルタイムで処理し、自ら判断して動作する設計である。
自律AIロボットの現在地
フィギュアのAIシステムは視覚情報をもとに物体を認識し、把持計画から動作実行までの全工程を自動生成する。アドコックCEOは「ロボットは事前プログラミングされた動きではなく、毎回異なる状況に適応している」と説明する。
配信映像では、サイズや形状の異なる複数の小包をロボットが次々と仕分ける様子が映し出された。同CEOによると、この作業でロボットが人間の介入を必要としたのは、極めて例外的なエラー発生時に限られるという。フィギュアは2024年2月にマイクロソフトやエヌビディア、アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏のファンドなどから6億7500万ドル(約1000億円)の資金調達を発表しており、時価総額は26億ドルに達している。
物流業界がにらむ実用化の壁
倉庫内物流は人型ロボットの有望な商用市場とされる。米国だけでも物流倉庫の年間人件費は数百億ドル規模に上り、慢性的な人手不足も深刻化している。アマゾンは既に自社倉庫でフィギュアのロボット試験運用を始めており、実用化に向けた大型実証実験として業界の関心を集めている。
もっとも、実環境での完全自律動作には依然として技術的ハードルが残る。照明条件や床面の状態、想定外の障害物への対応力など、倉庫ごとに異なる変数をAIがどう克服するかが実用化の鍵を握る。アドコックCEOも「現時点では特定条件下での試験段階」と認めており、本格展開の時期については明言を避けた。
日本市場への波及と競争構図
人型ロボットを巡る競争は日本企業にも波及しつつある。トヨタ自動車は自社開発の humanoide ロボット「T-HR3」の遠隔操作技術を進化させ、物流や医療分野での応用を探っている。ソニーグループもロボット事業を再拡大する方針を示しており、AIとハードウェアの統合で存在感を高める狙いだ。
フィギュアの完全自律路線に対し、日本のロボット開発では遠隔操作と自律のハイブリッド型を志向する企業も多い。アドコックCEOの発言は、日本企業が採用する段階的自律化アプローチとの対比で、業界内の設計思想の違いを鮮明にした形だ。国内の大手物流企業幹部は「完全自律と遠隔操作併用のどちらが早期実用化に適しているか、まだ結論は出ていない」と指摘する。
人型ロボット市場の拡大局面
調査会社ゴールドマン・サックスは、人型ロボットの世界市場が2035年までに60億ドル規模に達すると予測する。さらに長期的には380億ドルまで拡大する可能性に言及しており、各国のスタートアップが開発競争を加速させている。
アドコックCEOは「われわれの目標は単一機能の自動化ではなく、人間と同じ空間で多様な作業をこなせる汎用ロボットの実現だ」と語り、遠隔操作説を退けることで技術の真正性を強調した。実証段階から量産・展開段階への移行をにらみ、ロボットの自律性をどう証明し社会的信頼を獲得するかが、各社に共通する次の課題となる。