ベッセント氏来日が契機、サイバーリスク警戒も後押し
三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの3メガバンクが、米AI(人工知能)開発企業Anthropicの最新モデルMythosへのアクセス権を獲得する見通しであることが明らかになった。関係者によると、米ベッセント財務長官の来日を契機に実務協議が加速し、先月の限定公開で生じたサイバーセキュリティ上の懸念を逆手に取る形で、日本側が高度な防御目的での利用を提案したことが決め手となった。
ベッセント米財務長官来日で動いた金融AI協議
MythosはAnthropicが2025年3月に限定的に公開した最新の大規模言語モデルであり、金融取引の異常検知やサイバー攻撃予測の精度を飛躍的に高めるとされる。関係者によれば、ベッセント長官が4月初旬に日本を訪れた際、日米金融規制対話の非公式な場でこのモデルへの日本勢アクセスが議題に上った。米国側としても同盟国による先端AIの厳格管理への参加を求めており、日本の3メガバンクは「責任あるAI利用の実証パートナー」として選定された格好だ。
限定公開が引き起こした新時代のサイバーリスク懸念
Mythosをめぐっては、その能力の高さゆえに悪用時のリスクが指摘されている。先月の限定公開直後、複数のサイバーセキュリティ企業が「従来型の防御システムでは検知不可能なフィッシング攻撃やディープフェイク生成の自動化が現実味を帯びる」との分析を公表した。こうした見解を受け、金融庁と3メガバンクのCTO(最高技術責任者)は緊急協議を実施。自らがMythosの内部構造を理解し、防御側の視点でカスタマイズする必要性で一致していた。Anthropicの幹部は本件について、「特定の金融規制当局の監督下で、限定的かつ追跡可能な形での提供を検討している」とコメントした。
三菱UFJは決済監視、三井住友は法人営業支援を想定
各銀行の活用方針はすでに具体化しつつある。アナリスト筋の情報では、三菱UFJは1日約700万件に上る国内外の決済データをMythosに学習させ、従来比で誤検知率を最大40パーセント低減した不正検出モデルの構築を目指す。三井住友は法人営業支援への応用を主軸に据え、現在の与信判断にかかる平均2営業日を数時間に短縮する目標を掲げる。みずほはシステム障害の予兆検知と自動復旧プロセスの高度化を優先課題としており、グループ全体で総額2億ドル規模の関連投資枠を設定したとされる。
サイバー防御の人材育成とAIガバナンスの確立が急務に
Mythos導入は銀行側のガバナンス体制にも変革を迫る。モデルの内部判断プロセスは従来以上にブラックボックス化する傾向があり、金融庁が求める「説明可能なAI」の要件を満たすには、判定根拠を可視化する追加技術の開発が不可欠となる。これを受け、3メガバンクは2025年度中にAI監査の専門人材を現状の2倍にあたる合計300人規模に拡充する計画を進めている。クラウドストライクの日本法人セキュリティ統括責任者は、「Mythos級のAIを守りながら使う発想は、金融業界のAI人材競争を質的にも加速させる」と指摘する。
地域金融機関への波及は限定的か、コストと規制が壁に
今回の動きが日本の金融システム全体に与える影響は、なお不透明な部分を残す。大手行がMythosへのアクセスを得る一方で、開発費用と維持コストは年間5000万ドル超との試算もあり、地銀などへの横展開には高いハードルが存在する。金融庁幹部は「まずは3メガバンクでの厳格な運用実績を積み、その後の段階的開放を検討する」との方針を示しており、AI活用格差が金融機関の競争力を左右する局面に入ったことを印象づける展開となっている。