AI半導体市場で独自路線を突き進むセレブラス・システムズが新規株式公開(IPO)を申請し、最大47億ドルの評価額を目指している。投資家の間でエヌビディア一強への疲弊感が広がるなか、巨大チップ戦略を掲げる同社の上場は、AIインフラ投資の多様化を占う試金石となる。

ウエハースケール技術で挑むエヌビディアの牙城

セレブラスが武器とするのは、シリコンウエハー1枚をほぼ丸ごと使う「ウエハースケール・エンジン」である。同社の最新チップ「WSE-3」は4兆個のトランジスタを集積し、エヌビディアの現行主力GPU「H100」の約800億個を圧倒する規模だ。この巨大チップは現在、米国エネルギー省のスーパーコンピューターや製薬大手GSKの創薬研究、アブダビのAI企業G42などで稼働している。

CEOのアンドリュー・フェルドマン氏は「AIモデルの学習時間を数カ月から数日に短縮できる」と主張する。特定用途ではエヌビディア製クラスターを上回る性能を示しており、巨大化するAIモデルの開発コスト削減を訴求する。

売上高の7割依存 G42との深い関係

IPOに向けたS-1申請書によると、セレブラスの2024年通期売上高は9530万ドル、純損失は1億2570万ドルだった。前年の売上高4690万ドルから倍増したものの、収益の7割超をG42グループが占める。G42はセレブラスに約3億3500万ドルを出資する大株主でもあり、この依存構造が投資家の懸念材料となっている。

アナリストの間では「大口顧客への集中リスクが高い」との指摘が出ている。G42との契約が途絶えれば事業継続に支障をきたす可能性があり、上場後の顧客基盤拡大が経営の最優先課題となる。

最大47億ドル評価 半導体IPOとして異例の規模

セレブラスは今回のIPOで最大47億ドルの評価額を目指す。これは2024年に上場した半導体企業としては突出した水準で、アーム・ホールディングスのIPO以来の大型案件となる。引受幹事はシティグループとバークレイズが務める。

調達資金は製造能力の拡大とクラウドサービス「Cerebras Cloud」の強化に充当する見通しだ。同社は自社チップを使った推論サービスも展開しており、エヌビディアの「CUDA」エコシステムに対抗するソフトウェア戦略も上場後の成長ドライバーに据える。

AI半導体の裾野広げる追い風 供給制約が生む商機

セレブラスのIPOを後押しするのは、エヌビディア製品の慢性的な品不足と高価格である。H100のリードタイムは長期化し、大規模クラウド事業者でさえ調達に苦心する状況が続く。この隙間を突き、セレブラスは「エヌビディア以外の選択肢」として存在感を高めてきた。

AI半導体市場は2027年に4000億ドル規模に達するとの予測もある。エヌビディアが市場の8割を握るなか、AMDやインテル、そしてセレブラスを含むスタートアップ各社がシェア獲得を競っている。上場によって調達した資金で生産能力を増強できれば、供給制約に悩むAI開発企業の受け皿となる可能性がある。

日本の半導体戦略に与える示唆

セレブラスの台頭は、AI半導体の自給を目指す日本市場にとっても無縁ではない。ラピダスやPreferred Networksは国産AIチップの開発を進めており、エヌビディア代替を模索する動きは世界的な潮流になりつつある。セレブラスのIPO成否は、ニッチ技術に特化した半導体企業の成長モデルが資本市場で評価されるかのリトマス試験紙となる。上場後の株価推移と技術マイルストーンの達成度が、日本のAI半導体戦略の投資判断にも影響を与えるだろう。