エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者の2026会計年度における総報酬額が3630万ドルと、前年から27パーセント減少した。同社が4月15日に提出した委任状説明書によると、業績連動型の株式報酬であるパフォーマンス・シェア・ユニットの評価額が縮小したことが主因だ。

フアンCEOの報酬構成と減少の内訳

フアンCEOの報酬パッケージは、基本給、現金ボーナス、そして株式報酬で構成されている。基本給は前年から据え置きの100万ドルだった。現金ボーナスは業績目標の達成度に応じて支給され、400万ドルとなった。

最も大きな変動があったのは株式報酬である。2026会計年度に付与されたパフォーマンス・シェア・ユニットの会計上の価値は2600万ドルと、前年度の3760万ドルから31パーセント低下した。同ユニットの評価額は付与日時点の株価やボラティリティなどの前提条件に基づいて算出されるため、実際にフアンCEOが将来受け取る金額とは異なる点に注意が必要だ。

申告上の報酬総額は減少したものの、フアンCEOの純資産はエヌビディア株の保有を通じて依然として巨額だ。委任状説明書によれば、彼は発行済み株式の約3.8パーセントを保有しており、同社の時価総額が2兆ドルを超える水準で推移していることを踏まえると、保有株の価値は1000億ドル規模に上る。

報酬減でも突出する半導体業界内での高水準

今回の報酬縮小にもかかわらず、フアンCEOの報酬水準は米国の巨大テクノロジー企業の経営者と比較しても遜色がない。アドバンスト・マイクロ・デバイセズのリサ・スーCEOの2024年の報酬が約3040万ドル、インテルのパット・ゲルシンガー前CEOの退任前の報酬が約1690万ドルであったことを考えれば、フアン氏の待遇は突出している。

もっとも、これは会計上の申告額に過ぎない。フアンCEOの実際の収入を決定づけるのは、過去に付与された株式報酬の権利確定とその時点での株価である。エヌビディアの株価は直近1年間でなお2倍以上の水準にあり、長期的な富の蓄積という観点では、申告された報酬の増減が持つ意味は限定的だ。

株主提案にみるAIガバナンスの焦点

委任状説明書には、今年の年次株主総会で議決される株主提案も記載されている。注目すべきは、投資家団体が提出した人工知能の悪用リスクに関する報告書の作成を求める提案だ。提案者は、生成AI技術の急速な普及が偽情報の拡散やプライバシー侵害を引き起こす可能性を指摘し、取締役会による監督強化を要求している。

エヌビディアの取締役会はこの提案に反対を推奨している。同社は、既存のリスク管理体制と定期的な取締役会への報告プロセスで十分に対応可能であり、新たな報告書の作成は経営資源の重複配分につながると主張する。この対立は、AI半導体市場で9割近いシェアを握る同社に対する社会的な監視の強まりを象徴している。

日本企業が読むべき報酬設計の変化

フアンCEOの報酬変動は、日本の半導体・電機メーカーが役員報酬制度を設計する上でも示唆に富む。エヌビディアのケースが示すのは、株式報酬の「会計上の評価額」と「経営者が実際に得る経済的利益」が大きく乖離しうるという現実だ。

東京証券取引所が上場企業に資本コストを意識した経営を求め、業績連動型の株式報酬導入が加速する日本では、報酬の「見かけ上の金額」が制度の成否を巡る議論をミスリードするリスクがある。ある報酬コンサルタントのアナリストは、「日本企業は報酬額の単純な国際比較に終始せず、株主との利益共有をいかに長期的な企業価値向上に結びつけるかという設計思想こそ重視すべきだ」と指摘する。

エヌビディアの委任状説明書が詳述するパフォーマンス指標と評価プロセスは、形式ではなく実質を追求する報酬ガバナンスの一つの到達点として、日本市場の関係者にとっても参照価値が高い。