ブラジルのデータセンター事業者エレア・データセンターズは、国営石油公社ペトロブラス向けに総額23億レアル(約4億7000万ドル)規模のデータセンター整備計画の第1期工事を完了した。中南米最大の経済規模を持つブラジルで、クラウドコンピューティング需要が急速に拡大する中での大型投資案件となる。

第1期で構築したインフラの具体像

エレアが今回完工させたのは、ペトロブラスの基幹系システムを支えるコロケーション型データセンターの中核設備だ。具体的にはサンパウロ州内の主要拠点に、総ラック数500本超を収容可能なサーバールームを設置し、電力容量は当初設計で10メガワットを確保した。ペトロブラスはこの新設備により、石油探査で得られる膨大な地質データの処理速度を従来比で約3倍に高められるとみられる。

冷却システムには外気導入型のフリークーリングを採用し、ブラジル国内の同規模施設と比較して電力使用効率を示すPUE値を1.3未満に抑える設計だ。エレアのプロジェクト責任者によると、この数値は国内石油業界向けデータセンターでは最高水準のエネルギー効率となる。

23億レアル投資を決断したペトロブラスの事情

ペトロブラスが巨額のデータセンター投資に踏み切った背景には、海洋油田「プレソルト層」の開発加速がある。大水深の岩塩層下に位置するこの油田群では、1本の試掘井から生成される地震探査データが数ペタバイトに達する。既存のオンプレミス環境では解析に週単位の時間を要していたが、高密度コンピューティング基盤の導入で日単位への短縮を目指す。

加えて同社は2024年にサイバー攻撃を受けた経験から、重要インフラのデータ主権確保を経営課題に据えている。外国クラウド事業者への依存度を段階的に引き下げ、国内法の適用下にあるコロケーション施設へ回帰する動きの一環と位置づけられる。

クラウド市場が過熱する中南米の構造変化

本計画はラテンアメリカのクラウドインフラ投資ブームを象徴する事例でもある。調査会社IDCの推計では、ブラジルのパブリッククラウド市場は2025年に前年比27%増の62億ドルに達する見通しで、特に国有企業によるハイブリッドクラウド移行が成長を牽引している。

エレアの親会社であるパティア・インベストメンツは昨年末、サンパウロ郊外に第2拠点を着工しており、ペトロブラス向け案件を含む受注残は2億ドルを超える。同社CEOのアレッサンドロ・ロドリゲス氏は「ブラジル企業の間で、データを国内に留めつつクラウドネイティブな運用へ移行するハイブリッドモデルへの関心がかつてない高まりを見せている」と述べた。

エネルギー調達をめぐる課題と再エネ活用

大型データセンターの稼働に伴い、電力調達の持続可能性が投資家の視線を集めている。ブラジルは水力発電比率が高いものの、干ばつ時の電力価格高騰リスクを抱える。エレアは今回の施設に対し、ペトロブラスと共同で北東部の風力発電所から長期電力購入契約を締結した。

契約期間は15年で、データセンターの消費電力の85%を再エネで賄う枠組みとなる。ブラジル電力取引機関の公表資料によれば、同契約のキロワット時あたりの単価は市場平均を約12%下回る水準で、調達コスト安定化とESG目標達成を両立させる狙いがある。

日本企業にも波及するブラジルIT投資の示唆

ブラジル国有企業による大規模なITモダナイゼーションは、同国市場に参入する日本企業の事業戦略にも影響を及ぼす。商船三井や三井物産などが関与するブラジル沖合の洋上プラットフォームでは、操業データのリアルタイム共有基盤として現地データセンターの性能が調達条件に含まれ始めている。

IDCブラジルの主席アナリスト、ルシアナ・ソアレス氏は「ペトロブラスの本件は業界のベンチマークとなり、日系含む外資系サプライヤーにもデータ主権対応を迫る契機となる」と分析する。日本企業がブラジルで展開する重要インフラ事業において、現地データセンターを活用したシステム設計はコンプライアンス上の必須要件へと変わろうとしている。