深セン・アドテック・テクノロジーが香港市場での新規株式公開を検討していることが、事情に詳しい複数の関係者の話で明らかになった。データセンターや人工知能関連の中国企業による上場ラッシュに加わる動きであり、調達規模や上場時期は依然協議段階にあるものの、想定する企業評価額は約40億ドルに達する可能性がある。
評価額40億ドルを視野に入れるAdtekの事業基盤
Adtekは深センに本社を置く電子部品・モジュールメーカーで、主にサーバーや通信機器向けの高密度相互接続プリント基板やパッケージ基板を手がける。生成AIの普及に伴うデータセンター投資の急拡大を追い風に、高速伝送と放熱性能を両立する先端基板の需要を取り込んできた。複数の関係者によれば、AdtekはIPOによって3億ドルから5億ドル程度の資金調達を目指しており、その使途は生産能力の拡充と次世代基板材料の研究開発が中心になる見通しだ。
同社はこれまで深圳証券取引所への上場を模索していたが、審査の長期化や本土市場の変調を踏まえ、香港への方針転換を決めたとされる。現在、ゴールドマン・サックスやUBSグループを含む複数のグローバル金融機関を起用し、投資家の需要を探るプレマーケティングを水面下で進めている段階だ。関係者によると市況次第で上場時期は2025年後半にずれ込む可能性もあり、最終的な評価額は投資家との対話を経て調整されるという。Adtekの広報担当者は現時点でコメントを控えている。
香港市場で加速するAI・データセンター銘柄の上場連鎖
AdtekのIPO検討は単独の動きではない。中国では生成AIブームを背景に、データセンター運営事業者やAIサーバー関連のハードウェア企業が相次いで資本市場へのアクセスを強めている。香港取引所のデータによると、2025年第1四半期のTMTセクターにおける新規上場件数と調達総額はいずれも前年同期を上回り、大型案件ではデータセンター運営の普洛斯(GLP)傘下企業が9億ドル超を調達した。AI推論や大規模言語モデルの学習需要は2030年まで年率20パーセント以上のペースで伸びるとの国際エネルギー機関の試算もあり、これに必要な電源設備や冷却ソリューション、高多層基板などを供給する川上企業への注目度は格段に高まっている。
とりわけプリント基板業界では、エヌビディアの最新GPUアーキテクチャに対応するため従来の10層台から20層を超える超高多層基板への移行が進み、技術的参入障壁が一段と上がった。アドテックはこの領域で中国大手の深南電路やWUSプリンテッドサーキットと競合しながらも、複数の通信機器ベンダーとの長期供給契約を背景にシェアを拡大してきたとアナリストは指摘する。香港市場に上場すれば、こうした技術優位性を海外機関投資家に直接訴求できるうえ、人民元建ての資金調達に依存しない財務戦略を構築できる点が経営陣に評価されたとみられる。
中国当局の審査長期化が香港シフトを後押し
中国本土の証券監督当局は2023年後半以降、上場審査の厳格化を進めてきた。とくに製造業やIT関連企業に対しては、自主技術の保有比率や海外依存度、コーポレートガバナンスに関する追加開示が求められ、審査期間が平均で12カ月以上に及ぶケースが増えている。この結果、十分な収益基盤をもちながら上場を待つ企業が香港へ流れる構図が常態化しつつある。香港取引所の上場制度改革もこれに拍車をかけており、2023年に発効した新ルールでは先端ハードウェア企業に対して時価総額基準の緩和や重複上場手続きの簡略化が認められた。アドテックのケースもこの制度変更の恩恵を受ける可能性が高い。
地政学リスクとサプライチェーン再編の視点
一方で、投資家の間では米中対立の深化が電子部品サプライチェーンに与える影響を懸念する声は根強い。米国商務省は2024年末、先端パッケージ基板の製造装置に対する輸出規制を強化しており、アドテックが調達する一部のレーザー加工機や検査装置にも影響が及ぶ公算がある。それでも、東南アジアへの生産拠点分散を進めるEMS企業からの引き合いが増えていることがアドテックの成長シナリオを下支えしていると、市場関係者は分析する。
日本企業への波及と競合構図の変化
アドテックの香港上場は、日本の電子部品業界にも一定の影響を及ぼす可能性がある。現在、AIサーバー向け高多層基板市場では、日本のイビデンや新光電気工業が高い世界シェアを占めているが、中国系企業が香港市場で調達した資金を研究開発と設備投資に振り向ければ、中長期的な競合構図が変化する余地がある。さらに、日本企業が強みをもつ半導体パッケージ基板の分野でも中国メーカーの攻勢が予想され、東京エレクトロンなど関連装置メーカーを含むサプライチェーン全体で戦略の再点検を迫られる展開も想定される。日本の投資家にとっては、こうした中国発の資金調達動向を、競合分析とポートフォリオ構築の両面から注視する必要性が高まっている。