データセンター向けにモジュール型電力システムを開発するErock Inc.が、米国での新規株式公開(IPO)を申請した。売上高は拡大基調にあるものの、損失幅も同時に広がっていることが明らかになった。生成AI(人工知能)需要を背景としたデータセンター投資が過熱する中、重要部材を担う企業の財務実態に注目が集まっている。

増収率と赤字幅の実態

同社が証券取引委員会(SEC)に提出した申請書類によると、直近会計年度の売上高は前年比で増加した。具体的な成長率は二桁台後半に達したとみられるが、開示された数字からは、増収ペースを上回る速度で営業費用が膨らんでいる構図が読み取れる。特に研究開発費と販売管理費の伸びが顕著で、この結果、純損失は前期より大幅に拡大した。

損失拡大の主因は、次世代モジュールの開発投資と、大口顧客獲得に向けた営業人員の拡充にある。申請書類の中で経営陣は、AI向けデータセンターの電源密度が従来の数倍に跳ね上がっており、現行製品の技術的優位性を維持するための先行投資は不可避と説明している。

モジュール型電力システムが選ばれる理由

Erockが手掛けるモジュール型電力システムは、変圧器や配電盤、無停電電源装置(UPS)などをコンテナ状の筐体に統合した製品だ。従来、データセンター建設ではこれらの機器を現地で個別に据え付け、配線工事を行うのが一般的だった。モジュール型を採用する最大の利点は工期の大幅短縮で、工場で組み立て・試験を完了したユニットを現地に搬入し、接続するだけで稼働できる。

複数のデータセンター事業者へのヒアリングでは、AI用途の大規模クラスター構築において、電力インフラの整備が最大のボトルネックと指摘されている。Erockのシステムは電源容量あたりの設置面積が小さく、液冷方式との親和性も高いため、高密度ラックを短期間で立ち上げたいハイパースケーラーからの引き合いが急速に拡大している。

競合ランドスケープと価格競争

モジュール電力市場には、シュナイダーエレクトリックやバーティブといった既存大手も参入を強化している。ある業界アナリストによると、Erockの強みは標準化率の高さにある。主要部品の8割以上を共通化することで、特注設計に比べてリードタイムを40%短縮し、コスト競争力も確保しているという。

もっとも、競合各社も標準化戦略を模倣し始めており、価格下落圧力が強まる兆候が出ている。Erockの粗利益率は直近四半期で緩やかな低下傾向を示しており、上場後の投資家説明では、スケールメリットをどう利益率改善に結びつけるかが焦点となる。

AI向け調達競争で変化したサプライチェーン

データセンター業界では現在、NVIDIAのGPU調達だけでなく、電力設備や冷却装置の確保にも半年以上の待ち時間が発生している。Erockを含む電源装置メーカーは、特殊合金を使用する変圧器や大容量の半導体スイッチング素子など、限られた部品サプライヤーからの供給に依存している。

同社は申請書類の中で、サプライチェーンのボトルネックが業績リスクの一つになり得ると明記した。一方、業界全体で需要が供給を大きく上回っている状況下では、価格交渉力はしばらくメーカー側に優位な状態が続くとの見方が有力だ。

日本市場と国内電機メーカーへの含意

ErockのIPO申請は、日本の重電・電源機器メーカーにとっても対岸の火事ではない。国内企業の中には、北米データセンター向けのUPSや受変電設備の輸出を拡大しているところが複数ある。Erockが新規調達資金で生産能力を大幅に増強すれば、中長期的に日本勢の価格競争力が問われる場面が増える可能性がある。

日本のデータセンター建設でも、労働力不足を背景にモジュール工法の採用が徐々に広がっている。ある国内SIerの試算では、Erock型のモジュールを採用した場合、従来の現地組み立て方式に比べて電気工事の所要期間が最大で3割短縮できるという。国内市場は北米に比べて投資規模が小さいものの、人手不足が深刻化するにつれて、モジュール型電源システムの優位性はより鮮明になっていくとみられる。