AI開発スタートアップのAnthropicは2025年7月10日、自社株式への投資機会を提供すると称する二次取引プラットフォーム8社の名称を公表し、投資家に警告を発した。同社の評価額が600億ドル超に達する中、未公開株への需要急増に便乗した無許可の売買仲介が広がっている実態が明らかになった格好だ。

Anthropicは公式発表で「当社はいかなる形でもこれらのプラットフォームと提携しておらず、投資家に対して株式を譲渡する権限を一切付与していない」と明言した。名指しされたのはOpen Doors Partners、Unicorns Exchange、Pachamama Capital、Lionheart Ventures、Hiive、Forge Global、Sydecar、Upmarketの8社である。このうちHiiveとForge Globalは未公開株の二次流通市場で一定の知名度を持つプレイヤーであり、業界関係者に衝撃が走っている。

名指しされた8社の顔ぶれと事業実態

今回Anthropicが名指しした8社は、事業形態こそ異なるものの、いずれも未公開株へのアクセスを投資家に仲介すると標榜してきた企業群だ。HiiveはAI企業のセカンダリー取引に特化したカナダ発のオンラインマーケットプレイスで、過去にはSpaceXやOpenAIの株式取扱いも手がけている。Forge Globalは米国で未公開株取引プラットフォームを運営し、2022年にSPACとの合併で上場を果たした経緯を持つ。

Lionheart Venturesはベンチャーキャピタルでありながら、個人投資家向けにSPV(特別目的会社)を通じて未公開株への間接投資を組成していたとみられる。SydecarはSPV組成のための技術基盤を提供するフィンテック企業であり、複数のプラットフォームが同社の仕組みを利用してAnthropic株への投資機会を謳っていた可能性が高い。

Anthropicは発表文の中で「当社の株式を購入または売却する権限を正規に付与された二次取引プラットフォームは一社も存在しない」と強調しており、認可を受けた取引所が皆無である点に注意を促している。

評価額600億ドル超が生む未公開株フィーバー

Anthropicの未公開株をめぐる熱狂は、同社の急激な企業価値上昇に起因する。2025年3月にはシリーズEラウンドで35億ドルを調達し、評価額は615億ドルに到達。OpenAIの主要競合としてClaudeシリーズの性能が市場で高く評価されるたびに、投資家の食指が動く構図が加速した。

セカンダリー市場の仲介業者によると、Anthropic株の取引価格は直近の資金調達ラウンド評価額に対し30~40%のプレミアムが乗るケースも散見されるという。未公開株取引の情報を集約するCaplightのデータでは、2025年第2四半期にAnthropic株のセカンダリー取引指値が前年同期比で約2.4倍に膨らんでいた。この過熱ぶりが、無許可プラットフォームの乱立を招いたとみられる。

無許可取引に潜む法的リスクと譲渡制限

未公開スタートアップの株式には通常、取締役会の承認なく第三者に譲渡できない旨の制限条項が定款や投資契約に盛り込まれている。Anthropicも例外ではなく、同社の株式を正規の手続きなく売買した場合、当該取引は無効となり得るうえ、関与した投資家が将来の資金調達ラウンドへの参加資格を剥奪されるリスクがある。

証券法の専門家は「未承認プラットフォーム経由で取得した株式は、名義書換が拒否される可能性が極めて高く、実質的に無価値となる恐れがある」と指摘する。米国では1940年投資会社法に基づき、未登録の集団投資スキームに該当する場合、SECの摘発対象となる事例も過去に複数存在する。

日本市場への波及懸念と国内投資家の警戒点

日本国内でも、米国未公開株への投資機会を謳う金融商品販売業者やオンラインプラットフォームが近年増加している。金融庁の有価証券報告書等閲覧システムによれば、Anthropicを含む米国AI企業の株式を組み入れたと称するファンドが、2024年以降だけで少なくとも3件、日本の適格機関投資家限定で募集されている実態が確認できる。

これらのファンドが今回名指しされたプラットフォームを経由して原株式を調達していた場合、最終投資家である日本勢が巻き添えとなるシナリオは否定できない。国内のベンチャーキャピタリストは「セカンダリー取引の仲介業者を選定する際は、対象企業の正式な承認の有無を必ず確認すべきだ」と警鐘を鳴らす。

Anthropicは今後、無許可プラットフォームに対して法的措置を取る可能性を示唆している。一方でHiiveは「当社は売り手と買い手をマッチングする技術基盤を提供しているに過ぎず、株式そのものを販売しているわけではない」との反論を内部関係者向けに展開していると伝えられる。未公開株二次流通市場の透明性をめぐる攻防は、AI業界の資金調達構造に一石を投じる展開となっている。