イーロン・マスク氏のAI開発企業xAIが、米テネシー州メンフィスに建設中のデータセンター「Colossus 2」で、可搬型ガス火力発電設備を19基追加導入していることが内部メールから明らかになった。地元環境団体との大気汚染を巡る法廷闘争が続く中での稼働拡大であり、地域住民の健康被害への懸念が一層強まっている。

稼働中のガスタービンは現時点で何基か

関係者が開示した社内メールと運用データによれば、xAIは2025年6月までに、Colossus 2用地内で合計35基の可搬型ガスタービン発電機を稼働させる計画を持つ。このうち19基は4月下旬から5月にかけて新たに搬入・設置されたもので、すでに16基が商用運転を開始している。1基あたりの出力は約30メガワットで、19基合計では570メガワットに達する。これは一般家庭約40万世帯分の電力需要に相当する規模だ。

今回の拡張について、xAIの広報担当者は「世界的なAI開発競争において、安定した計算資源の確保は不可欠である」と説明する。一方、テネシー州環境保全局(TDEC)の広報担当ダニエル・スミス氏は本紙の取材に対し、「追加導入されたタービンの一部について、大気汚染防止法に基づく許可申請の手続きが完了していない」と指摘している。

環境団体が指摘する健康リスクの実態

地元環境保護団体「メンフィス・コミュニティ・アゲンスト・ポリューション(MCAP)」は2025年2月、xAIとTDECを相手取り、大気浄化法違反を理由とする差し止め訴訟を連邦地方裁判所に提起した。MCAPの法務責任者キーシャ・ピアソン氏は声明で、「Colossus 2用地は住宅地からわずか1.6キロメートルの距離にあり、窒素酸化物や微小粒子状物質の排出が喘息や慢性閉塞性肺疾患のリスクを著しく高める」と警告する。

社内文書で確認された排出モニタリングデータによると、既存タービン16基からの窒素酸化物排出量は1時間あたり推定2.4トンに上る。これは同地域の主要固定汚染源である製油所や化学工場を大きく上回る水準であり、19基の追加導入によって排出量が2倍以上に膨れ上がる計算になる。MCAPは裁判所に対し、全タービンの一時稼働停止と包括的な環境影響評価の実施を求めており、6月中旬に審理が予定されている。

テネシー州の規制とxAIの法的戦略

xAIは、ガスタービンが「一時的な緊急電源」に該当するとして、恒久設備に求められる厳格な排出基準の適用を回避する立場をとる。しかし、TDEC内部文書では、同社が2024年後半から少なくとも18カ月間の継続使用を計画していることが示されており、「緊急用」の定義との矛盾が指摘されている。

TDECの大気汚染管理局長マーク・ウィリアムズ氏は4月の公聴会で、「可搬型タービンの累積的な環境負荷を評価する枠組みが法的に整備されておらず、現行規制では対応に限界がある」と証言した。これに対し州議会では、AIデータセンター向けエネルギー施設の許認可手続きを迅速化する法案が審議入りしているものの、野党議員からは「企業優遇が住民の健康を犠牲にしてはならない」との反対意見が相次いでいる。

日本市場への間接的影響

データセンター向けガス火力への需要急増は、日本企業のエネルギー機器輸出に追い風となる可能性がある。三菱重工業と川崎重工業は可搬型ガスタービンの世界市場で高いシェアを有しており、米国での需要拡大が2026年3月期以降の受注残高を押し上げるとの予測が市場アナリストの間で出始めた。もっとも、環境訴訟の行方次第では、北米市場全体でガス火力依存型データセンターへの規制が強化されるリスクもあり、日本勢にとっては両面性を持つ展開である。

AI開発競争と地域社会の相克

xAIのColossus 2プロジェクトは、総投資額が100億ドル規模と推定される巨大案件である。マスク氏は投資家向け説明会で、「2026年までに100万基のGPUを稼働させる」との目標を掲げ、OpenAIやGoogleとの生成AI競争を勝ち抜く意志を鮮明にしている。

しかし、メンフィス北西部では住民の抗議活動が激化している。地域住民のサラ・ジョンソン氏は取材に応じ、「子どものぜんそく発作がこの1年で倍増した。市当局は雇用創出を強調するが、私たちの医療費は誰が払うのか」と訴えた。シェルビー郡保健局の集計でも、Colossus 2用地の風下にあたる地区で呼吸器疾患による救急搬送件数が前年比32パーセント増加している。

AIの進歩がもたらす経済的恩恵と、その開発を支えるエネルギーインフラが地域社会に強いる負担をどう均衡させるか。テネシー州メンフィスで展開される法廷闘争は、世界中のAIハブが今後直面する規制モデルの試金石となる。連邦地裁の判断は早ければ2025年7月中にも示される見通しだ。