年初から市場をけん引してきた半導体株が7月第4週、今年に入り最も厳しい売りにさらされた。上昇基調を前提とした投資戦略に黄色信号がともり、投資家のリスク選好が急速に冷え込んでいる。S&P500種株価指数は取引時間中に一時1.4%下落し、エヌビディアとAMDの下げが指数全体を押し下げる展開となった。
エヌビディアは時価総額上位で最大の下落率
ブルームバーグのデータによると、エヌビディアの株価は21日の通常取引で6.8%安となり、主要半導体銘柄の中で最大の下げを記録した。エヌビディア単体の下落はS&P500の日中値動きの4分の1近くを説明する水準で、時価総額ベースでは1日でおよそ1800億ドルが失われた計算になる。
AMDも7.8%安と大きく売られ、半導体株で構成するフィラデルフィア半導体指数は前営業日比5.3%安で引けた。同指数は年初から7月上旬までに3割超上昇していたが、今回の下げで月間騰落率はマイナス圏に沈んだ。ハイテク比率の高いナスダック100指数も2.9%下落し、今年に入ってからの上昇分が急速に削られている。
投資家心理を冷やした直接のきっかけは、バイデン政権が対中半導体輸出規制の強化を検討しているとの報道である。ブルームバーグが複数の関係者の話として報じた内容では、先端半導体製造装置に加え、AI向け先端チップの販路をさらに狭める措置が俎上に載る。対象にはエヌビディアのH20チップなど中国市場向けに性能を抑えた派生製品も含まれる見通しだ。
モメンタム投資の前提を揺るがす政策リスク
今回の急落は、半導体株の上昇トレンドに追随してきたモメンタム戦略の危うさを改めて浮き彫りにした。JPモルガンのクオンツ部門が22日に公表したノートによれば、CTA(商品投資顧問業者)などアルゴリズム取引主体の半導体ロングポジションは過去3カ月で最高水準に積み上がっていた。相場転換と同時に一斉に売りシグナルが点灯し、下げを加速させた構図だ。
バンク・オブ・アメリカのストラテジストは顧客向けリポートで「半導体セクターのバリュエーションは利益成長への過度な期待を織り込んでおり、地政学要因を軽視してきた」と指摘する。S&P500半導体サブセクターの予想PERは7月上旬時点で約28倍と、5年平均の約22倍を大きく上回っていた。政策ショックを吸収できる安全域は既に乏しかったといえる。
オプション市場が示す構造的な需給悪化
デリバティブ市場の動きも半導体株の苦境を裏付ける。オプション清算機関OCCの統計では、エヌビディアのプットコール比率が一時1.2倍を超え、年初来平均の0.8倍から大きく売り方向に傾いた。22日朝の時間外取引でもコールオプションの売りが膨らみ、短期的な戻りを期待する動きは限られる。
シティグループのデリバティブストラテジストは「週末を前にしたヘッジコストが急騰しており、機関投資家が半導体セクターのエクスポージャーを積極的に削減している証左だ」とコメントした。実際、S&P500のインプライドボラティリティ指数VIXは21日に18.6まで跳ね上がり、1カ月ぶりの高水準で取引を終えた。投資家の不安心理の高まりは半導体だけにとどまらず、ハイテク全般に及びつつある。
日本市場の半導体関連銘柄に波及する売り圧力
この余波は東京市場にも即座に伝わった。7月22日の日経平均株価は前週末比472円安で寄り付き、東京エレクトロンは一時7%を超す下げに見舞われた。アドバンテストやレーザーテックなど半導体製造装置メーカーも連れ安となり、東証プライム市場の値下がり上位を半導体関連が占める展開である。年初からの上昇が大きかった銘柄ほど利益確定とリスク回避の売りが重なりやすく、投資家の慎重姿勢が強まっている。
機関投資家は利益確定を急ぎ現金比率を引き上げ
ヘッジファンドのポジション調整も急ピッチで進んだ。ゴールドマン・サックスのプライムブローカレッジ部門週次レポートによると、7月第3週の半導体セクターに対する売越額は過去6カ月で最大を記録した。ファンド全体の現金比率は4.2%と前月から0.6ポイント上昇し、リスク資産の圧縮が加速している。
あるグローバル運用会社のポートフォリオマネジャーは匿名を条件に「AI需要は構造的だが、株価がその価値を先食いしすぎた。今回の規制強化報道がなくとも利益確定のタイミングを探っていた」と語る。実際、エヌビディアの株価は年初からピークまでの上昇率が150%を超え、AI半導体バブルを警戒する声はくすぶり続けていた。
ASMLやTSMCの決算で再評価迫られるセクター全体
今週はオランダのASMLホールディングが24日に決算発表を予定し、台湾積体電路製造(TSMC)も既に公表した四半期決算の詳細分析を待つ。TSMCは先週、売上高が市場予想を上回ったものの、先端プロセスの設備投資計画を据え置いたことで市場の過度なAI期待は一部修正されたとの見方がある。
野村證券のアナリストは「ASMLのEUV露光装置の受注残とTSMCの3ナノメートルライン稼働率が、実需の手掛かりになる」と指摘する。今週発表される数値が堅調でも、規制リスクによる将来収益の割引がどこまで織り込まれるかは不透明だ。半導体セクター全体のバリュエーション再評価が、8月の機関投資家のポジション調整と重なる可能性は小さくない。