韓国株式市場を代表するサムスン電子とSKハイニックスが、グローバルのテクノロジー企業と比較して著しく割安な状態に置かれている。両社は年初から大幅な株価上昇を記録し、国内投機家の熱狂を集めたにもかかわらず、バリュエーション面では依然として魅力的な水準だ。ブルームバーグの集計データによると、両社の予想PER(株価収益率)は主要な同業他社群を大きく下回り、AI半導体需要の急拡大という構造的追い風を考えれば、この評価差は市場の非効率を示唆する。本稿では、韓国を代表する半導体2社の実態と割安構造の背景を分析する。
AIブームの最大受益者が映す異常な割安水準
AI向け半導体需要の爆発的拡大が業績を押し上げている。サムスン電子の2024年1〜3月期営業利益は前年同期比9倍以上の6.6兆ウォンに急増し、SKハイニックスはHBM(広帯域幅メモリー)市場の先行者利益を享受して営業黒字転換を達成した。ところが株価純資産倍率(PBR)は、サムスンが1.3倍台、SKハイニックスが1.9倍台と、グローバル半導体銘柄の平均3.5倍を大幅に下回る。
この歪みを数値化すると一層鮮明になる。ブルームバーグがまとめたアナリスト予想ベースのフォワードPERは、サムスン電子が約13倍、SKハイニックスは約11倍である。エヌビディアの35倍超、AMDの約40倍はもちろん、台湾TSMCの19倍と比較しても見劣りする。両社合計の時価総額は韓国KOSPI市場全体の3割超を占めるにもかかわらず、このディスカウントは解消されていない。あるグローバル運用会社のファンドマネジャーは「AIを語る上でHBMを外せない時代に、唯一の量産供給網を持つ2社がこの水準に留まるのは明らかな市場の失敗だ」と指摘する。
コリア・ディスカウントの呪縛が生む構造的過小評価
割安の根源には、長期化するコリア・ディスカウントがある。支配株主の影響力が強く株主還元に消極的な企業統治構造、北朝鮮リスクに代表される地政学的な不透明性、流動性の低い配当文化が複合的に作用し、韓国企業全般にバリュエーションの下方圧力がかかっているのだ。
サムスン電子は2023年に過去最高の自社株買いを発表し、SKハイニックスも設備投資の効率化を進めている。しかし市場が求める変化のスピードは速い。JPモルガンのアナリストは直近のリポートで「企業統治改革が本格化すれば、現在の株価には30%以上の上昇余地がある」との試算を示した。韓国政府が導入を推進する株主価値向上プログラムの実効性が、ディスカウント解消の鍵を握る。
循環性への過剰な悲観が織り込む下方硬直性
メモリー半導体の歴史的な循環変動リスクが、構造的成長への評価転換を妨げている。従来、メモリー市場は2〜3年周期の好不況を繰り返し、直近の2023年前半には過去最悪クラスの在庫調整に直面した。この記憶が投資家心理に染みつき、AI需要による景気の平準化効果が過小評価されている可能性がある。
対照的なのがエヌビディアだ。GPUの圧倒的シェアを背景に高収益が持続するという前提が株価に織り込まれている。ところがサムスンとSKハイニックスは、HBMがデータセンター向け売上の5割を超える水準に達しても、依然として汎用メモリーの市況悪化リスクで価格形成されている。世界のAI半導体市場が2030年にかけて年率25%以上で拡大するとの業界予測を踏まえれば、現在のPER水準は循環性を過大に織り込みすぎていると言わざるを得ない。
HBM寡占体制がもたらす未曾有の収益力
技術的優位の高さも再評価が必要だ。AI半導体に不可欠なHBM市場は、エヌビディアとAMDが求める最新仕様のHBM3Eにおいて、SKハイニックスとサムスン電子が実質的な複占状態を築いている。米マイクロン・テクノロジーが追い上げるものの、2024年の量産出荷比率では韓国2社が9割超を占める見通しだ。
HBMは汎用DRAMより製造難度が格段に高く、単価は4〜5倍に達する。SKハイニックスはこの分野でエヌビディア向けの先行供給契約を締結しており、2025年以降の生産能力分まで完売状態にある。サムスン電子も次世代HBMの生産ラインを大幅増強中で、先端パッケージング技術を含めたトータルソリューションで差別化を図る。ある半導体商社幹部は「2026年までHBMの供給不足は続く」との見方を示しており、両社の利益成長は当面揺るがない。
日本市場と設備投資連鎖が生む次の焦点
この韓国半導体の構造変動は日本の製造装置・材料メーカーに直接の恩恵をもたらす。東京エレクトロンやレーザーテックなどの日本企業は、HBM製造の鍵となる積層工程や微細加工で不可欠な装置を供給しており、SKハイニックスが発表した2024年の設備投資計画は前年比4割増の9兆ウォン超だ。日本の素材メーカー各社も先端パッケージ向け材料の引き合いが四半期ごとに増加していると報告している。グローバル半導体サプライチェーンの中で、割安に放置された韓国2社の設備投資拡大がアジア全体の産業再編を加速する構図が鮮明になりつつある。