米人工知能向け半導体とデータセンター事業を手掛けるセレブラス・システムズが24日、ナスダック市場に新規上場し、初日の終値が公開価格を81%上回った。調達額は55億5000万ドルと今年世界最大の新規株式公開となり、生成AI需要を背景にした投資家の期待の高さを示した。

取引初日に時価総額200億ドル超え

ブルームバーグのデータによると、カリフォルニア州サニーベールに本社を置く同社の株価は公開価格47ドルに対し、初日終値は85.08ドルを付けた。この結果、希薄化後ベースの時価総額は約210億ドルに達した。AI半導体市場ではエヌビディアが圧倒的シェアを握るが、セレブラスは従来のGPUとは異なるウエハースケールチップという独自アーキテクチャで差別化を図っている。

通常の半導体がシリコンウエハーを小さく切り分けて製造されるのに対し、同社の「WSE-3」はウエハー1枚をほぼ丸ごと使う世界最大のチップだ。これによりメモリ帯域幅と演算速度を飛躍的に高め、大規模言語モデルの学習時間を短縮できると主張している。

調達額が示すAIインフラ投資の過熱

当初の仮条件レンジは42ドルから46ドルだったが、機関投資家の需要が想定を上回り、47ドルに引き上げられた。55億5000万ドルという調達規模は、グローバルなIPO市場が低調だった2023年から2024年にかけての案件の中で突出している。モーニングスターのアナリストは「生成AI向け計算資源への需要が供給を大幅に上回る状態が続いており、エヌビディアの代替となり得る企業への関心は極めて高い」と指摘する。

公表資料によれば、2024年12月期の売上高は約2億5000万ドルと前年から倍増したものの、依然として営業赤字が続く。研究開発費の膨張が主因で、純損失は2億ドルを超えている。それでも上場初日の急騰は、短期的な収益性より技術的優位性と成長余地に資金が流れる現在の市場心理を映し出した格好だ。

G42との提携が生む大口需要

収益拡大の鍵を握るのが、アラブ首長国連邦のAI企業グループ42(G42)との戦略的提携である。G42はセレブラスの大口顧客であると同時に、2023年に3億3500万ドルの出資を行った。今回のIPOではG42関連会社が最大1億5000万ドルの追加購入をコミットしており、上場後の事業基盤を支える構図となっている。

両社は中東地域に大規模なAIデータセンターを共同建設中であり、このプロジェクトだけで複数年にわたる数十億ドル規模の収益が見込まれる。中東諸国が石油依存経済からの脱却を進めるなか、AIインフラの整備は国家戦略に位置付けられており、セレブラスにとって追い風が続く公算が大きいと市場関係者は見ている。

エヌビディア一強構造への挑戦

AI学習用半導体市場ではエヌビディアのH100および後継のB200が事実上の標準となっている。セレブラスのほかにもAMDやグーグル、アマゾンが独自チップを開発するなど競争は激化しているが、同社の最大の差別化要因は単一チップの巨大さにある。

WSE-3は4兆個のトランジスタと90万個の演算コアを集積し、一般的なGPUの約50倍のオンチップメモリを搭載する。このアーキテクチャは大規模AIモデルを複数のGPUに分散させる際に生じる通信遅延を根本的に減らせる利点があり、製薬企業や軍事研究機関など極めて高い計算密度を求める分野で採用が進んでいる。

競合分析を手掛ける半導体専門調査会社のアナリストは「短期的にエヌビディアの牙城が崩れるとは考えにくいが、用途特化型の選択肢としてセレブラスの地位は確立しつつある」と評価する。

日本市場への波及と半導体サプライチェーン

今回の大型上場は日本の半導体関連企業にも間接的な影響を及ぼす可能性がある。セレブラスは自社工場を持たないファブレス企業であり、製造を台湾積体電路製造(TSMC)に委託している。ウエハースケールチップの生産には最先端のパッケージング技術が不可欠であり、TSMCが拡大を進める先端パッケージング分野において日本の材料メーカーや装置メーカーの供給機会が広がるとの指摘が出ている。

また東京エレクトロンやレーザーテックなど日本の半導体製造装置メーカーにとっても、AI向け先端チップの需要拡大は中長期的な追い風となる。日本政府がラピダス支援を通じて国産AI半導体の育成を急ぐなか、セレブラスのアーキテクチャの考え方は国内の研究開発戦略を考える上でも参照点の一つになるだろう。