AI向け半導体を設計する米セレブラス・システムズの株価が、新規株式公開(IPO)初日の3月27日に公開価格比68%高で取引を終えた。55億ドルを調達した今年世界最大のIPOであり、人工知能(AI)向けデータセンターとそれを支える半導体への投資家の旺盛な需要を鮮明に示した。

カリフォルニア州サニーベールに本社を置く同社の株式は、ニューヨーク市場で185ドルの公開価格を大きく上回る311.07ドルで初日の取引を終了した。取引時間中には値動きの激しさから一時売買停止となる場面もあり、上昇幅は一時100%を超えた。

今回のIPOによる調達額は、月曜日に引き上げられた仮条件の上限を上回り、当初の目標額から約6割増となった。上場により、AI特化型半導体市場における同社への期待値の高さが改めて浮き彫りになった形だ。

公開価格すら上回る爆発的人気の背景

セレブラスが設計する「CS-3」は、汎用的な画像処理半導体(GPU)とは一線を画す巨大なウェハースケールチップである。ひとつのシリコンウェハーを極限まで活用し、メモリー帯域幅と処理速度でエヌビディアのGPUを凌駕する性能を謳う。

投資家がここまで強い関心を示したのは、AIモデルの巨大化に伴い、学習処理を高速化する専用ハードウェアの重要性が増大しているためだ。マーケッツ・インサイダーの集計によれば、セレブラスのIPO初日の上昇率は時価総額10億ドル超のAI関連企業としては過去12カ月で最大となった。

ブロードベリー・キャピタル・マネジメントのアナリスト、マーク・モリス氏は「カスタムAIチップの市場規模は2028年までに600億ドルに達する。セレブラスはその初期段階における有力な競争相手と見なされている」と指摘する。

5億ドル超えの確定契約が示す実需

セレブラスの事業は設計開発に特化し、製造は台積電に委託するファブレスモデルを採用している。顧客には製薬大手グラクソ・スミスクラインや金融サービス企業が名を連ね、AIを使った創薬やリスク分析向けの需要を取り込んできた。

米証券取引委員会(SEC)への提出書類によると、同社は2024年12月期の売上高が前年比3倍の3億2900万ドルに拡大した。さらにIPO時点で6億ドルを超える確定受注契約を確保しており、単なる期待感ではなく実需が株価を支える構図が鮮明になっている。

エヌビディア一強への挑戦とリスク

もっとも、同社の時価総額は上場初日終値ベースで約290億ドルと、エヌビディアの3兆ドル超とは依然として桁がふたつ違う。AI半導体市場はエヌビディアがデータセンター向けGPUで圧倒的なシェアを握り、AMDや自社開発チップを進めるアマゾン・ドット・コムなども虎視眈々と追撃する。

収益面では、売上高の4割超を占めていた中東のAIデータセンター運営企業G42との契約条件変更リスクが有価証券報告書で開示されている。単一事業者への依存度の高さは、今後の業績変動要因として投資家が注視するポイントとなる。

日本企業への間接的影響と調達網

セレブラスの台頭は、日本の半導体製造装置や材料メーカーにとっても無視できない動きだ。ウェハースケールチップの製造は、回路線幅の微細化よりも歩留まり制御と先端パッケージング技術が鍵を握る。

現在、セレブラスのチップは全て台湾のTSMCで生産されているが、装置の一部には東京エレクトロンの成膜装置やレーザーテックの検査装置が採用されている可能性が市場関係者の間で指摘されている。最先端パッケージングを手掛けるイビデンや新光電気工業といった日本企業の技術が、巨大チップの放熱や信号伝送の課題解決に寄与するとの見方もある。

2025年のIPO市場再開を占う試金石

セレブラスのIPOは、テック企業の新規上場が低迷していた2023年から2024年の停滞期を経て、2025年の市場が再び活況を取り戻すかどうかを占う試金石となる。ディールロジックのデータでは、今年の米国IPO市場の調達総額はすでに前年同期比で40%増加している。

AIインフラへの投資が国家戦略として位置づけられるなか、半導体設計企業への資金流入は一過性のブームではなく構造的なトレンドに映る。好調な初日の値動きの裏で、継続的な収益成長と顧客基盤の分散という課題をクリアできるかどうかが、この注目企業の真価を問うことになる。