半導体新興企業の米セレブラス・システムズは24日、米ナスダック市場への新規株式公開(IPO)初日、公募価格を75%上回る株価で取引を終えた。調達額は55億ドルと今年最大のIPOとなり、人工知能(AI)向けデータセンターとそれを支える半導体への投資意欲が依然として旺盛であることを示した。

セレブラスが設定したIPO公募価格は1株あたり44ドル。初日の取引では77ドルで寄り付いた後、一時80ドル台に乗せる場面もあり、終値は77ドルで落ち着いた。時価総額は約210億ドルに達し、上場前の評価額である約40億ドルから一気に5倍以上の規模へと膨らんだ計算だ。

年間最大IPOを引き寄せたエヌビディア対抗の位置取り

今回のIPOでセレブラスが市場に訴求した最大の論点は、巨額の設備投資を続けるAIデータセンター市場における半導体供給源の多様化である。現在、AI学習・推論向け半導体市場はエヌビディアが圧倒的なシェアを握るが、その供給制約と高コストに直面する顧客企業は第二、第三の選択肢を真剣に模索し始めている。

セレブラスが開発する「CS-3」は、ウェハー全体をひとつのプロセッサーとして使うウェハースケールエンジン技術を中核とする。従来のチップを複数並べて相互接続するアーキテクチャと異なり、単一の巨大なシリコン基板上に数十万の演算コアを集積することで、ノード間通信の遅延を大幅に抑制できる。同社の説明資料によれば、大規模言語モデルの学習時間をエヌビディアのH100搭載システムと比較して数分の一に短縮できるケースもあるという。

引受幹事を務めたシティグループとバークレイズのアナリストらはロードショー資料で、世界のAI半導体市場が2028年までに年平均30%超の成長を遂げるとの調査会社予測を引用し、セレブラスの商機を強調した。実際、同社の2024年12月期売上高は約4億ドルと前年比で倍増しており、IPO調達資金の大半は生産能力の拡大と次世代チップ「CS-4」の開発に投じられる見通しである。

投資家を動かした二桁成長の事業基盤

目を引くのは、機関投資家が初日の急騰後もなお積極的に買いを入れた事実だ。通常、大型IPOの初値が公募価格を大きく上回ると利益確定売りに押される局面が多いが、セレブラスには終日買いが続いた。あるヘッジファンドのポートフォリオマネジャーは「55億ドルを調達できる希少性と、エヌビディア一強に風穴を開ける潜在力の両方を評価した」と匿名で語る。

セレブラスの顧客基盤も投資判断を後押しした。米アルゴンヌ国立研究所やローレンス・リバモア国立研究所など政府系機関に加え、アブダビのAI企業G42、さらに複数の大手クラウド事業者が導入を進めている。直近の四半期では売上高の約6割を政府・公共セクターが占めるが、商用クラウド向けの比率が急速に高まっている点をアナリストは前向きに捉える。

AI半導体争奪戦が加速するサプライチェーンの制約

初日の好調な値動きとは裏腹に、セレブラスが直面する供給面の課題は小さくない。同社は台湾積体電路製造(TSMC)にチップ製造を全面的に依存しており、特にウェハースケールという特殊なプロセスはTSMCの先端パッケージング技術「CoWoS」の一種を大量に消費する。このCoWoS自体がエヌビディア向けを中心に逼迫しており、TSMCが急拡大するAI需要にどこまで応えられるかがセレブラスの成長曲線を左右する。

これに対しセレブラスのアンドリュー・フェルドマン最高経営責任者(CEO)は上場前のインタビューで「TSMCとは複数年にわたる予約契約を結んでおり、向こう数年分の生産能力は確保済み」と述べ、短期的な供給途絶リスクは限定的との見解を示した。もっとも、エヌビディア、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ、さらにはアマゾン・ウェブ・サービシズやグーグルの自社設計チップまで、TSMCの先端プロセスを巡る争奪戦は激化の一途をたどる。

東京エレクトロンなど日本装置メーカーへの波及

セレブラスの台頭は、日本の半導体製造装置メーカーにとっても商機となり得る。ウェハースケールチップは面積が標準的なシリコンウェハーの数十倍に達するため、成膜やエッチング工程で高い均一性が要求され、東京エレクトロンやSCREENホールディングスが得意とする高精度装置の需要増につながる可能性がある。国内証券のアナリストは「AI半導体のアーキテクチャ多様化は、特定顧客向けに装置をカスタマイズできる日本企業にとって追い風だ」と指摘する。

高まる期待と並走する黒字化への道筋

市場の熱狂をよそに、セレブラスの収益構造はなお発展途上である。IPO目論見書によれば、2024年12月期の純損失は約2億ドルに上り、研究開発費と販売管理費が売上高を大きく超過している。黒字化の時期について経営陣は明言を避けるが、売上総利益率は60%台後半で推移しており、生産規模の拡大とともに損益分岐点に近づくとのアナリスト予測が大勢を占める。

セレブラスは上場を機に、カスタムAIクラウドサービス「Cerebras Cloud」の展開を本格化させる方針である。自社チップをデータセンターに設置し、AIモデルの学習や推論を時間単位で提供する事業モデルへと踏み込むことで、チップ販売に偏重しない高付加価値型の収益構造を目指す考えだ。

AIをめぐる投資熱は24年に入っても冷める気配がなく、データセンター事業者による設備投資計画は年初から上方修正が続く。セレブラスのIPO初日が示した75%の上昇は、その熱量を映すと同時に、エヌビディア代替を求める市場の実需が想像以上に強いことを浮き彫りにした格好である。