米アルファベットは4月10日、円建ての普通社債で5765億円(約36億ドル)を調達した。非日本企業による円建て債の発行額として過去最大となる。調達資金はデータセンターや人工知能(AI)向けインフラへの投資に充てる方針で、巨額の設備投資を迫られるテクノロジー大手の資金調達競争が日本市場にも及んでいる。
アルファベットの発表によると、今回の発行は年限3年から30年までの7本立てで構成される。最も発行額が大きいのは5年債の1697億円で、10年債が1464億円、7年債が1019億円と続く。30年債は276億円を発行した。起債主幹事はゴールドマン・サックスと三菱UFJモルガン・スタンレー証券などが務めた。
非日本企業として初の5000億円超え
ブルームバーグの集計データによれば、非日本企業による円建て債の発行額として、これまでの最大記録は2021年にカナダの不動産大手ブルックフィールド・アセット・マネジメントが実施した5050億円だった。アルファベットはこの記録を一気に約700億円上回り、円建て市場における外国民間企業の資金調達規模を新たな水準に引き上げた。
格付けが高い米国のビッグテック企業が円建て債を発行する背景には、日本市場の調達コストの低さがある。日本銀行が慎重な金融政策を続けるなか、長期金利は他の主要国と比較して低位で推移しており、発行体にとって有利な調達環境が続く。さらにアルファベットはムーディーズから「Aa2」、S&Pグローバルから「AA+」と高い信用格付けを取得しており、投資家の旺盛な需要を引き出した。
データセンター投資の加速
アルファベットは2025年の設備投資額を約750億ドルと見込んでおり、前年の約530億ドルから4割以上の増額を計画する。スンダー・ピチャイ最高経営責任者は2月の決算説明会で「AIの計算能力を拡張するために大規模な投資を継続する」と述べており、クラウドサービス「Google Cloud」向けのデータセンター新設やAI専用チップの開発に資金を振り向ける構えだ。
マイクロソフトも2025年度に約800億ドル規模のAIインフラ投資を計画するほか、アマゾン・ドット・コムは同年の設備投資を1000億ドル超と予想する。メタ・プラットフォームズも650億ドル規模の投資方針を示しており、ビッグテック各社によるAI基盤の拡充競争は激しさを増している。今回の円建て債発行も、そうした投資資金を多様な通貨で機動的に確保する狙いがあるとみられる。
米中対立が生む日本市場の魅力
円建て債の調達拡大には地政学的な要因も絡む。米中対立の深刻化により、中国市場での資金調達に依存することへのリスクが意識されるなか、日本市場は政治的な安定性と流動性の高さから代替先としての存在感を高めている。
実際、非日本企業による円建て債の発行は拡大傾向にある。ブルームバーグのデータでは、2025年に日本で外国民間企業が発行した円建て債は4月10日時点で累計2兆7000億円を超え、すでに通年では過去最大だった2024年の2兆4400億円を上回った。投資家の円建て資産への需要が根強いことも、大型案件を支える要因となっている。
日本市場への影響と投資家の選別
日本国債の利回りが低迷するなか、より高い利回りを求める国内機関投資家にとって、高格付けの外国民間企業が発行する円建て債は魅力的な投資対象となっている。アルファベットのような知名度と信用力を兼ね備えた発行体の債券は、地方銀行や生損保などからの引き合いが強い。
ただ、資金が海外企業の社債に流れることで、国内企業の起債環境に影響が出る可能性も指摘される。ある邦銀の債券部門責任者は「優良な発行体が日本市場で大型調達を続ければ、相対的に国内企業の社債の需給が緩む局面もあり得る」と話す。とりわけ中堅以下の発行体は価格面で競合を強いられるケースが出てくるかもしれない。
アルファベットの資金調達多様化戦略
アルファベットは2024年8月にも50億ドル規模のドル建て社債を発行しており、今回の円建て債を含めて調達手段の多様化を進めている。ドル、ユーロに次ぐ資金調達通貨として日本円の比重を高める動きは、他のビッグテックにも波及する可能性がある。
今回の社債は年限ごとに販売先を細かく設定した設計も特徴だ。短期から超長期まで幅広い年限をそろえることで、異なる運用ニーズを持つ投資家層を取り込む手法は、大型起債を円滑に消化するうえで有効に機能した。低金利環境が続く限り、日本の債券市場はグローバル企業にとって重要な資金調達拠点としての地位をさらに固めていきそうだ。