米巨大IT企業が人工知能(AI)向け投資の資金調達を海外債券市場で加速させている。Alphabetは15億ドル、Amazonは80億ドル超の社債を欧州や豪州で発行し、データセンターなどAI基盤の拡充に充てる。低金利の海外市場を活用し、数十億ドル規模の設備投資を機動的にまかなう戦略が鮮明になった。

欧州市場で相次ぐ大型調達の背景

Alphabet傘下のグーグルは2025年3月、スイス・フラン建てで2本の社債を発行した。3年債で4億2500万フラン(約4億7000万ドル)、8年債で9億2500万フラン(約10億2000万ドル)を調達している。調達資金はAI基盤やクラウド事業の拡大に振り向ける方針だ。

Amazonも2月、ユーロ建て社債の発行条件を決定した。年限は7年と20年の2本で、発行総額は80億ドル相当にのぼる。需要は発行額の3倍を超え、年金基金や保険会社など欧州の長期投資家が強い関心を示した。

両社に共通するのは、自国市場を離れた調達手法にある。ブルームバーグのデータによると、スイスやユーロ圏の社債利回りは米国より約0.3〜0.5%低く、10億ドル規模の発行で年間数百万ドルの利払い差が生じる計算だ。

AI投資に傾斜する資金配分の全容

Alphabetの2024年通期設備投資額は525億ドルに達した。ルース・ポラット社長兼最高投資責任者は決算説明会で「2025年はさらに750億ドル規模へ拡大する」と明言している。クラウド顧客のAI需要が供給を上回っており、サーバーやネットワーク機器の調達を急ぐ構えだ。

Amazonも負けていない。2024年の設備投資は約780億ドルで、2025年は1000億ドルを視野に入れる。アンディ・ジャシー最高経営責任者は「AIはクラウド事業にとって一生に一度の転換点だ」と述べ、データセンター建設を加速する姿勢を強調する。

この投資競争の裏には、大規模言語モデルの学習に必要な計算資源が指数関数的に増大する現実がある。最新モデルの訓練コストは1回あたり1億ドル超との試算もあり、巨大IT企業でも社債発行を含む多様な資金調達が不可欠になっている。

日本市場が注目するマルチ通貨調達戦略

海外起債の動きは、日本企業の資金調達戦略にも示唆を与える。ソフトバンクグループやNTTなど通信・テクノロジー大手の間で、スイス・フラン建てや豪ドル建て債への関心が近年高まっているためだ。

実際、日本企業によるスイス・フラン建て社債の発行額は2024年に過去最高を記録した。三菱UFJモルガン・スタンレー証券によると、ソフトバンクグループは2024年に5億フラン超の社債を複数回発行し、金利負担の軽減に成功している。

AI向け投資が世界的に増えるなか、より安価な資金を求めて複数市場を往来する発行体の動きは加速する見通しだ。三井住友DSアセットマネジメントのシニアストラテジストは「AI投資の収益化には時間がかかる。調達コストの差が長期的な競争力を左右する」と分析する。

為替リスクと格付けの綱引き

海外起債には為替変動リスクがつきまとう。ドル高が進行すれば、ユーロ建てやフラン建て債務の返済負担が実質的に軽くなる半面、急激なドル安局面では逆風となる。

Alphabetは為替リスクをヘッジするデリバティブ取引を併用しているもようだ。同社の財務報告書では「通貨スワップを通じて資金調達コストの固定化を図る」との記述がある。Amazonも同様の手法を取っているとみられるが、詳細は明らかにしていない。

格付け面では両社とも強固な財務基盤が支えになる。S&Pグローバル・レーティングはAlphabetを「AA+」、Amazonを「AA」と評価している。AI向け巨額投資が格下げ要因になる可能性について、アナリストからは「営業キャッシュフローの伸びが借入増を吸収できる水準にある」と楽観する声が優勢だ。

投資家需要が映すAIブームの持続性

起債の引き合いの強さは、AI事業への市場の信認を映す。Alphabetのスイス・フラン建て8年債には発行額の4倍超の注文が集まり、Amazonのユーロ建て債も機関投資家のロングオンリー勢が買いの中心となった。

ブラックロックの債券運用責任者は「AI関連の資本支出は過剰に見えても、20年前のインターネット基盤投資と同じ構図だ。勝者が決まる前にインフラを押さえる必要がある」と述べる。設備が過剰となるリスクは否定できないものの、現時点でAI投資を手控えれば市場シェアを失いかねないというジレンマが両社の背中を押す。

データセンターの建設ラッシュは電力インフラにも波及し、関連する日本企業への部材発注が増加する兆しもある。米IT大手の資金調達がもたらす波紋は、部品サプライヤーや電力業界の再編を促す触媒となる可能性を秘めている。