米アルファベット傘下の自動運転開発企業Waymoは、自社のロボタクシー約3800台を対象とする自主回収を実施した。冠水した道路を検知できず走行を続ける可能性があるソフトウェアの不具合に対応する措置で、同社は既に修正プログラムの適用を完了している。
Waymoが米運輸省道路交通安全局(NHTSA)に提出した報告書によると、問題が発覚したのは一般道での走行データを精査していた過程だった。複数の車両が局地的な大雨によって冠水した道路を適切に認識できず、そのまま進入する事象が確認されたという。
冠水検知アルゴリズムの欠陥が発端
今回の不具合は、Waymoの自動運転システムが備える「冠水道路検出機能」に内在するアルゴリズムの欠陥に起因する。同システムは車載カメラやLiDARから得られる路面の反射パターンやテクスチャ情報を分析し、水深が走行可能な範囲を超えるか否かを判断するが、特定の照明条件や水面の状態が重なると誤判定を起こすことが判明した。
Waymoの広報担当は「安全マージンを極めて保守的に設定しており、実際に水没や乗員の危険が生じた事例は報告されていない」と説明する。それでも同社は、予防的安全策として対象車両の全台に修正済みソフトウェアを無線配信する方法を選択した。物理的な部品交換を伴わないOTA(Over-the-Air)アップデートによる対応であり、サービスの停止期間は最小限に抑えられている。
対象は全稼働車両の約半数 運行規模の拡大がリスク管理に影
Waymoが今回の回収で対象とした3800台という数字は、同社が保有するロボタクシー全体の約半数に相当する。NHTSAへの届出資料では、2023年後半から2025年初頭にかけて生産された車両が該当し、カリフォルニア州サンフランシスコやロサンゼルス、アリゾナ州フェニックスなどの主要運行エリアで稼働していた。
業界アナリストは「フリートの急拡大が品質管理に与える影響が顕在化した事例だ」と指摘する。Waymoの週間有料走行回数は2024年1月時点で約5万回だったが、2025年3月には20万回を突破。運行台数の増加に伴い、これまで希少だった走行シナリオに遭遇する頻度が指数関数的に上昇していることが背景にある。
規制当局との関係が試される自主回収
今回の回収はWaymoが「自発的」と位置づけるものの、NHTSAの監督下で届け出が行われた。同社は2024年にも、駐車中の車両が低速で衝突する不具合で約400台を対象とするソフトウェア更新を実施しており、規制当局との情報共有手続きは定常化しつつある。
自動運転の安全基準をめぐっては、米国で法整備が遅れているとの批判が根強い。連邦レベルでの包括規制が存在しないなか、メーカーによる自主回収制度が事実上の安全網として機能しているのが現状だ。今回のWaymoの迅速な対応は、事故抑止効果があった半面、業界全体の信頼獲得に向けては依然として情報開示の拡充が求められている。
日本市場の開発戦略にも波及する視点
Waymoは2025年2月、日本交通および東急グループと提携し東京都内での実証実験を開始したばかりである。今回の回収対象に日本導入車両は含まれていないものの、冠水リスクは台風や集中豪雨が多い日本市場において看過できない課題となる。
自動運転の社会実装を推進する経済産業省の有識者会議でも、海外で発生したソフトウェア不具合の事例を国内の認証制度にどう反映させるかが議題に上がる見通しだ。ある国内自動車メーカーの自動運転開発責任者は「日本特有の気象条件下でセンシング技術の限界をどう克服するかが実用化の鍵になる」と述べており、Waymoの事例は貴重な先行データとなる。
次世代モビリティの信頼構築へ残る課題
Waymoは今回の修正により、路面の水分量を推定する機械学習モデルに冠水時の教師データを追加し、誤判定率を従来比で大幅に低減したと説明する。ただ、自動運転システムが完璧な判断を下せる環境は限られており、悪天候時に手動運転への引き継ぎを促す設計思想そのものに変更はない。
市場調査会社ガイドハウス・インサイトの最新リポートは、ロボタクシーの商用化において「安全性の証明」と「事業収益性の両立」が2026年までの最大の経営課題になると分析する。Waymoの迅速なリコール対応は企業としての誠実さを示した一方、ソフトウェアの修正頻度が利用者の安心感にどう影響するかは未知数である。