OpenAIのサム・アルトマンCEOは法廷証言で、イーロン・マスク氏が2017年にOpenAIの営利子会社の完全な支配権を要求した際、「非常に不快だった」と述べた。両氏の決裂が現在のAI業界の構造に与えた影響の大きさを浮き彫りにする証言である。

法廷で明かされた2017年の支配権要求

アルトマン氏は裁判所での証言において、マスク氏がOpenAIの営利子会社化を進める過程で、自らが完全な支配権を持つことを強硬に主張したと明かした。「その会話は身の毛がよだつ思いだった」とアルトマン氏は表現し、マスク氏の要求に強い違和感を抱いたと述べている。

問題となったのは、非営利組織として設立されたOpenAIの下に営利子会社を設立し、AI開発に必要な巨額の資金を調達する計画である。マスク氏はこの新会社の経営支配権と過半数の株式保有を求めたという。

アルトマン氏によれば、マスク氏はCEOとして会社を完全に掌握し、取締役会の過半数を指名する権限を要求した。OpenAIの共同創業者らは、一人の個人に集中する権力構造がAIの安全な開発という使命に反すると判断した。

マスク氏離脱が生んだOpenAIの独自路線

マスク氏の要求が拒否された後、同氏は2018年にOpenAIの取締役を辞任した。マスク氏は当初、10億ドル規模の資金提供を約束していたが、離脱によりその資金調達計画は白紙となった。この決裂がなければ、OpenAIの現在の企業構造は存在しなかった可能性が高い。

アルトマン氏は証言で「マスク氏が去ったことで、我々は別の道を進まざるを得なくなった」と説明。これが結果的に、マイクロソフトからの巨額投資を受け入れる現在の「キャップド・プロフィット(利益上限付き営利企業)」モデルへとつながった経緯を語った。

OpenAIは2019年にマイクロソフトから10億ドルの出資を受け、その後も累計で130億ドル超の資金を調達している。マスク氏が残留していれば、この提携は実現しなかったとアルトマン氏は示唆した。

マスク氏側の反論と対立の構図

一方、マスク氏は2024年にOpenAIとアルトマン氏を提訴し、非営利組織としての設立趣意書に違反して営利企業化したと主張している。マスク氏の法務チームは、OpenAIが「人類の利益のために安全なAIを開発する」という創業時の使命を放棄し、マイクロソフトの商業的利益に奉仕する組織に変質したと批判する。

これに対しアルトマン氏は、マスク氏自身がかつて営利化と完全支配を求めた事実を証言で対比させた。マスク氏がOpenAIを離れた後に同氏が設立したxAIは、完全な営利企業として60億ドルを調達しており、アルトマン氏はマスク氏の訴訟を「競合としての市場戦略だ」と位置づけている。

裁判所に提出された電子メールなどの証拠資料からは、マスク氏が「OpenAIが成功する確率は0%だ。テスラ以外に唯一対抗できるのはグーグルだけだ」と述べ、OpenAIをテスラに統合する構想を持っていたことも示されている。

AI業界の権力集中をめぐる構造的課題

この法廷闘争は、最先端AIの開発において権力と資本をどう分散させるかという業界全体の構造的課題を象徴している。アルトマン氏の証言は、マスク氏が問題視した「AIの商業化」が、皮肉にもマスク氏自身がかつて追求したモデルだったことを示唆する内容となった。

AIガバナンスの専門家からは、営利企業によるAI開発の加速と安全性確保の両立は、単一組織や個人の支配では達成できない複合的課題だとの指摘が相次いでいる。今回の証言は、オープンな統治構造を掲げたOpenAIの内実が、創業者間の権力闘争によっていかに揺れ動いてきたかを白日の下に晒した。

現在、OpenAIは企業価値評価額が860億ドルに達し、世界的なAI開発競争の中心的存在となっている。日本市場においても、同社のGPTシリーズは多くの企業が業務効率化や新サービス開発に活用しており、ソフトバンクグループが国内向け法人サービスを展開するなど影響力は拡大している。両氏の法廷闘争の行方は、こうした日本企業のAI調達戦略にも間接的な影響を及ぼす可能性がある。

非営利理念と資金調達のジレンマ

アルトマン氏の証言が浮き彫りにしたのは、理想的な非営利モデルと巨額の資金需要の板挟みというジレンマだ。生成AIの訓練には数億ドル単位の計算資源が必要であり、寄付のみに依存する構造では大手テクノロジー企業に対抗できない現実がある。

アルトマン氏は「我々は営利活動を完全には排除せず、利益に上限を設けるという『第三の道』を選んだ」と証言した。この構造は、投資家に一定のリターンを保証しつつ、超過利益を非営利本体に還元する仕組みである。しかしマスク氏は、この設計自体が欺瞞的だと非難している。

裁判の判決は2025年以降にずれ込む見通しだ。AI開発の主導権をめぐるアルトマン氏とマスク氏の確執は、単なる企業統治論争を超え、人類が直面する技術ガバナンスの未解決問題を提起し続けている。