ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、英国で提起されたPlayStation Storeを巡る集団訴訟において、7億8500万ドル(約1150億円)規模の和解に合意する見通しであることが明らかになった。提訴した消費者団体によると、今回の和解方針は同社がデジタル販売市場での支配的地位を濫用し、ソフトウェア価格を不当に吊り上げた疑惑を全面的に決着させるものだ。対象となるのは2016年から2022年までの間にPSストアでゲームや追加コンテンツを購入した英国在住の約890万人とされているが、実際に支払われる還付額は利用者の期待を大きく下回る可能性が指摘されている。

英国で起きた集団訴訟の核心

本件は英消費者権利活動家アレックス・ニール氏が主導し、英国の競争控訴裁判所に2022年8月に提訴された集団訴訟である。訴状の骨子は、SIEが自社のPlayStation Storeにおいてゲームパブリッシャーとの直接販売を独占し、小売市場との競争を排した結果、デジタルゲームの販売価格が物理パッケージ版と比べて最大で10%以上割高に設定された、というものだ。ニール氏側の推計では、消費者が被った追加負担は総額で最大約50億ポンドにのぼるとされていた。SIEは当初、この主張を「事実無根」として徹底抗戦の構えを見せていたが、長期化する訴訟コストと企業イメージへの影響を勘案し、最終的に和解という決着を選んだとみられる。

1人当たりの還付金はごく小額にとどまる公算

裁判所資料と関係者への取材によれば、和解総額7億8500万ドルのうち、訴訟手数料や弁護士費用、運営経費として約30%が差し引かれる見込みである。残る5億5000万ドル弱が実際の分配原資となるが、単純計算で890万人が請求した場合、1人当たりの還付額はわずか65ドルから120ドル程度に収まる可能性がある。さらに請求手続きがオンライン限定となることや、請求期間内に自ら登録を行わなければ権利を放棄したとみなされる「オプトイン方式」が採用されるとみられ、請求に至る消費者は対象者全体の2~3割にとどまるとの観測も法曹関係者から出ている。

長期化する還付プロセスとSIEの現状

和解合意が英国競争控訴裁判所によって最終承認された後も、実際の支払いは早くとも2025年末以降になるというのが大方の見方である。SIEは和解金の支払いに加え、英国でのデジタル販売契約の一部見直しも検討しているが、同社の2023年度ゲーム&ネットワークサービス部門の売上高は約290億ドルに達しており、今回の和解額は年間営業利益の1割にも満たない水準だ。アナリスト予測では、PlayStation Plusの加入者数が頭打ちとなる中、SIEは今回の和解をレピュテーションリスクの早期除去と位置づけているという。一方で、欧州委員会や米連邦取引委員会(FTC)もプラットフォーム運営事業者の課金慣行に対する監視を強めており、本件は他地域での類似訴訟の呼び水となる可能性をはらんでいる。

ソニーグループの法務戦略が示すもの

ソニーグループは近年、ゲーム事業における独占禁止法関連の訴訟や課金を巡る消費者紛争に積極的に和解で応じる傾向を強めている。2023年には北米でPlayStation 5のコントローラー「DualSense」のスティックドリフト問題に関する集団訴訟でも和解に動いた経緯がある。また、欧州ではデジタル市場法(DMA)の適用拡大を見据え、サードパーティ決済の容認などプラットフォーム開放を段階的に進めている。

日本市場への示唆

本件は英国限定の和解であるが、日本の消費者と無関係ではない。日本の公正取引委員会も2024年に入り、アプリストアやゲームプラットフォーム事業者の取引慣行に関する実態調査を本格化させている。特に、ソニーが日本で2023年に実施したPS Plusの大幅値上げは、デジタルコンテンツの価格決定プロセスにおける透明性の欠如という点で、英訴訟と問題の根を同じくする構造的な課題を浮き彫りにした。日本の消費者契約法では、こうした集団的な損害賠償請求のハードルが依然高く、立法措置を含めた制度整備の遅れが指摘されている。

利用者が今取るべき行動

英国在住で対象期間中にPSストアでの購入履歴がある利用者は、専用ウェブサイトやSIEからの公式通知を定期的に確認する必要がある。還付額は小さいとはいえ、請求しなければ1ドルも支払われない仕組みであるため、対象者は自身のアカウントに紐付いた購入記録を保全しておくことが推奨される。なお、日本を含む英国外のアカウント利用者は今回の和解枠組みの対象外である。