米電気自動車(EV)メーカーのRivian Automotiveから分離独立した倉庫・物流向け自律搬送ロボット開発企業、Mind RoboticsがシリーズCラウンドで4億ドル(約600億円)を調達した。関係者によると、今回の資金調達により同社の評価額は50億ドルを超え、累計調達額は10億ドルに達する。2025年末に初めて存在が明らかになってからわずか1年余りでの急成長は、自律型ロボティクス分野におけるスピンオフ戦略の成功例として業界の注目を集めている。
新たな資金は主に米国の大手投資ファンドと中東の政府系ファンドが拠出した。Mind Roboticsはこの資金を生産能力の拡大とソフトウェア開発体制の強化に充てる計画だ。同社はRivianの先進運転支援システムで培われたセンサーフュージョン技術と経路計画アルゴリズムを倉庫内搬送に応用し、既存の物流ロボットでは困難だった非定型物のピッキングと高密度保管を両立させている。CEOのサラ・チェン氏は投資家向けの声明で「2027年までに北米の主要物流拠点200カ所への導入を目指す」と述べた。
アマゾン依存脱却を図るRivianの選択
Mind Roboticsのスピンオフは、Rivianにとって戦略的転換点となったことが取材で明らかになった。Rivianは創業以来、最大顧客であるアマゾン・ドット・コム向け配送バンの生産に経営資源を集中させてきたが、2024年にアマゾンとの独占供給契約が見直されて以降、収益源の多角化が経営課題となっていた。
同社のRJ・スカリンジCEOは2025年4月の決算説明会で「当社の自動運転技術には物流業界全体を変革する潜在力がある」と指摘。社内の先端技術部門が開発していた自律搬送システムを独立企業として切り出すことで、自社はEV製造に専念しながらロボティクス事業の成長を取り込むハイブリッド戦略を採用した。この手法はゼネラル・モーターズが自動運転子会社クルーズを分離した事例と類似するが、Rivianの場合は保有株式の過半を維持したまま外部資本を呼び込む点でより資本効率の高いモデルとなっている。
モーニングスターのアナリスト、デビッド・ウィストン氏は「Rivianは車両販売だけでは収益化に時間を要する中、ロボティクス事業の価値を市場に直接評価させる巧みな資本政策だ」と分析する。実際、Mind Roboticsの評価額50億ドルはRivianの時価総額の約4分の1に相当し、非中核事業としては異例の規模に成長した。
倉庫ロボ市場で加速する技術競争
自律搬送ロボット市場は現在、構造的転換期を迎えている。米調査会社ガートナーによると、2026年の世界市場規模は280億ドルに達する見通しで、前年比35%増の高成長が続く。牽引役はネット通販の拡大に伴う物流人材不足だが、従来の無人搬送車(AGV)に代わる自律移動ロボット(AMR)の台頭が市場再編を加速させている。
Mind Roboticsの強みは、Rivianが自動運転車開発で蓄積した150万マイル分の走行データを倉庫内の動線最適化に転用できる点にある。既存のAMR大手である米ロッカス・ロボティクスやカナダのオットー・モーターズが専用設計のハードウェアを主軸とするのに対し、同社はソフトウェアの汎用性を武器に物流倉庫の運営企業と直接契約を結ぶビジネスモデルを採用している。
米物流大手のXPOロジスティクスは2026年9月、テネシー州の旗艦倉庫にMind Roboticsのロボット200台を導入した。同社のオペレーション責任者は「従来型AGVと比較してピッキング作業時間を42%短縮できた」と成果を公表している。現場では人間の作業員とロボットが完全に同じ通路を共有しながら協調作業を行う点が評価されており、安全性を担保する障害物回避アルゴリズムが差別化要因となっている。
日本市場にも波及する自律物流の潮流
この動きは日本の物流業界にとっても無縁ではない。国内では2024年問題に端を発する物流危機への対応として、オカムラやダイフクといった国内メーカーに加え、中国のギークプラスが日本市場でのシェアを急速に拡大してきた。Mind Roboticsはまだ日本法人を設立していないが、チェンCEOは2026年11月のロイター通信のインタビューで「東京周辺の物流不動産デベロッパーと商談を進めている」と言及した。
日本物流システム協会の試算では、国内の倉庫内搬送ロボット導入率は2026年時点で12%と、米国の34%に大きく水をあけられている。しかし三菱地所やGLPなど物流施設大手がAMR対応型の新規格倉庫を相次いで着工しており、潜在需要は大きい。Mind Roboticsが日本展開に際して課題となるのが欧米と異なる倉庫の床耐荷重基準と狭小通路への対応で、同社はアジア市場専用の小型モデルの開発を進めている模様だ。
スピンオフ競争が映すEV業界の構造変化
Rivianの動きはEV業界全体に広がる水平分業化の潮流を象徴する。テスラが人型ロボット「オプティマス」の開発を進める一方、ルーシッド・モーターズは2025年にパワートレイン事業の一部を他社にライセンス供与する方針を打ち出した。量産化競争で巨額の設備投資を強いられるEVメーカーにとって、ソフトウェア資産を独立事業化して追加資金を獲得する手法は財務基盤の強化に直結する。
ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツで物流テック投資を統括するクレイ・マクルーア氏は「Mind Roboticsの10億ドル調達は、自律搬送がVCの関心領域から機関投資家の大型資金が流入する成熟フェーズに入った証左だ」と指摘する。同社は2027年中に新規株式公開(IPO)を申請する可能性が取り沙汰されており、物流ロボット市場の成長性を測る試金石として市場関係者の視線が集まっている。