OpenAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は進行中の法廷闘争において、イーロン・マスク氏が同社の支配権を自身の子供たちに継承させようとする「空恐ろしい」構想を持っていたと証言した。マスク氏側はアルトマン氏に詐欺的行為や個人的な投資ネットワーク疑惑を追及したが、アルトマン氏はマスク氏が営利化と絶対的支配に固執していた実態を詳細に語り、両者の決裂の本質が金銭やAIの安全性ではなく、経営権を巡る闘争であった実態を明らかにした。

マスク氏が夢見た王朝継承シナリオ

裁判資料と関係者証言によると、マスク氏は2017年当時、非営利組織であったOpenAIを営利企業へ転換する過程で、自身が絶対的な支配権を握る構造を強硬に主張していた。アルトマン氏の証言では、マスク氏はOpenAIを「自分の子供たち」に引き継がせる未来図を真剣に議論し、この発想を「hair-raising(身の毛がよだつ)」と評したという。

アルトマン氏はマスク氏の弁護団による反対尋問で「イーロンはOpenAIをテスラやスペースXと同じように、自身の永続的支配下に置きたがっていた」と断じた。マスク氏は当初、過半数の株式保有と取締役会の完全支配、そしてCEO就任を要求。これが拒否されると、2018年2月にOpenAIからの離脱を表明し、約10億ドルと見込まれていた資金提供を突如停止した。

営利化を巡る決定的な対立構図

裁判で明らかになった中核的争点は、OpenAIの営利転換を誰がどのようにコントロールするかであった。マスク氏はOpenAIを自らのテスラに統合する案さえ提示し、「テスラの金庫」をAI開発の資金源に据える青写真を描いていた。一方アルトマン氏を含む共同創業者グループは、単独支配を避けるガバナンス構造を模索した。

アルトマン氏は「我々はAIの安全性という使命に忠実であろうとしたが、イーロンは支配そのものに固執していた」と証言。マスク氏が2018年に離脱した後、マイクロソフトからの巨額出資を受け入れる道を選んだのは、特定個人の支配を回避するための苦渋の決断だったと説明している。マスク氏側はこの過程を「契約違反」と「詐欺的勧誘」と非難しているが、アルトマン氏はマスク氏自身が営利化を主導しようとした事実を詳細な電子メールで反証した。

マスク氏弁護団の詐欺追及とアルトマン氏の反論

法廷でマスク氏の弁護団は、アルトマン氏の個人的な投資活動に照準を合わせた。具体的には、アルトマン氏がOpenAIのCEOでありながら、複数のAI関連スタートアップや半導体企業、核融合開発企業などに広範な投資ポートフォリオを構築している点を「利益相反の温床」と追及した。

これに対しアルトマン氏は、自身の投資はOpenAIの使命と「完全に整合的」であり、いずれも取締役会に開示済みと反論。むしろマスク氏こそが、xAIという競合AI企業を2023年に設立しながらOpenAIを非難する矛盾を抱えていると指摘した。アルトマン氏は「彼は我々の成功を見て、自分がコントロールできないことを許せなくなった」と動機を分析している。

日本企業が読み解くべきガバナンス教訓

今回の法廷闘争は、先端AI開発における企業統治の在り方に重大な論点を投げかけている。ソフトバンクグループがOpenAIへの追加出資を検討し、楽天グループが大規模言語モデル開発で提携を模索する中、日本のAI産業関係者にとってガバナンスモデルの選択は対岸の火事ではない。

東京のベンチャーキャピタル関係者は「創業者の個人支配か分散型統治かという二分法は、日本のAIスタートアップにとってもこれから顕在化する課題だ」と指摘する。マスク氏が描いた「王朝型」支配モデルが現実化していれば、OpenAIの独立性や安全性研究の優先順位はまったく異なるものになった可能性がある。アルトマン氏の証言は、技術覇権を個人の野心から切り離す組織設計の困難さを浮き彫りにしたと言える。

34万5000ドルの寄付が生んだ軋轢

裁判で改めて確認された事実として、マスク氏のOpenAIへの実際の資金拠出額は4500万ドル程度にとどまり、公約した10億ドルには遠く及ばなかった。皮肉にもマスク氏が2013年にAI安全性研究へ向けて寄付した34万5000ドルが、後に自らが競合となる組織の起点となったことになる。

アルトマン氏は最終陳述で「我々は人類のためのAIという原点を堅持している」と強調した。両者の溝が決定的となったのは、マスク氏がCEO就任と支配権を要求した瞬間だった。アルトマン氏は、マスク氏がグローバルAI覇権を個人の野心と同一視する「危険な錯覚」に陥っていたと表現し、裁判所にOpenAIの現在の営利・非営利ハイブリッド構造の正当性を訴えた。マスク氏が描いた家族継承型支配の構想は、テクノロジー史における最も高額な別れ話として記録されることになる。