資産運用大手ヤナス・ヘンダーソン・グループのアリ・ディバジ最高経営責任者(CEO)は、投資ファンド運用会社トリアン・ファンド・マネジメントとの提携について「大きな活力を得ている」と述べた。テクノロジーと人工知能(AI)への積極投資を通じて運用成績の向上を図る方針を明らかにしたもので、米国市場を起点としたグローバルETF事業への参入計画も同時に公表した。カリフォルニア州ビバリーヒルズで開催中のミルケン研究所グローバル会議において、ブルームバーグテレビジョンのインタビューに応じた。
■ 提携の具体像 ディバジCEOの説明によると、トリアンからの戦略的出資を契機として、同社はテクノロジー投資を従来計画から大幅に積み増す方針を固めた。具体的な投資規模には言及を避けたものの、投資判断の高度化と顧客体験の抜本的な変革を目的としてAIと機械学習の導入を急ぐ考えを示した。ヤナス・ヘンダーソンの運用資産残高は2024年3月末時点で約3530億ドル(約53兆円)に達しており、ここにトリアンの運用ノウハウと経営資源を組み合わせることで、アクティブ運用の差別化を一段と強化する狙いがある。
運用業界ではデータ分析の精度がアルファ獲得の成否を分ける決定打になりつつある。ディバジCEOは「AIはリサーチプロセスを根本から変える潜在力を秘めており、ポートフォリオマネージャーの意思決定を補完する存在へと進化させる」と強調。人間の経験と機械の分析力を融合させるハイブリッドモデルの構築に注力する姿勢を示した。
■ 業界構造の転換点 今回の提携が市場関係者の注目を集める背景には、伝統的アクティブ運用会社が直面する構造的な逆風がある。モーニングスターの調査によれば、2023年も米国大型株アクティブファンドの約6割がベンチマークを下回る運用成績に終わった。低コストのパッシブ運用への資金流出が続く中、アクティブ運用各社はテクノロジー投資による差別化が喫緊の経営課題となっている。
ブラックロックやバンガードといったパッシブ運用の巨人が市場シェアを拡大する一方、キャピタル・グループやT.ロウ・プライスなど老舗アクティブ運用会社もAI活用に数十億ドル単位の投資を実施している。ヤナスとトリアンの連携は、こうした業界再編の流れを象徴する動きと位置づけられる。トリアンはネルソン・ペルツ氏が率いるアクティビストファンドとして知られ、事業会社への深い関与と経営改革で実績を積んできた経緯があり、同社の知見を運用会社自体の変革に応用する異色のケースとなる。
■ ETF市場への参入戦略 ディバジCEOはETF事業について、アクティブ型ETFを中核商品として米国市場で立ち上げ、段階的にグローバル配信を拡大する計画を明らかにした。ETF市場は世界的に残高が11兆ドルを突破し、特にアクティブETFの成長率は年率30%超と急拡大している。ディバジCEOは「ETFラッパーは投資家に透明性と税務効率を提供し、当社の運用哲学との親和性が高い」と述べ、既存の投資信託ビジネスとETFを並行展開するマルチチャネル戦略を描いている。
日本市場への影響も看過できない。ヤナス・ヘンダーソンは日本株アクティブファンドで一定のプレゼンスを確立しており、国内の機関投資家や一部の個人投資家にもなじみが深い運用会社である。ETF事業が本格化すれば、日本の証券会社を通じた販売拡大や東証ETF市場への波及も視野に入る。野村総合研究所の推計では、日本のETF市場は2024年末に残高が90兆円を突破する見通しであり、海外運用会社の商品多様化は個人投資家の資産形成手段の拡充につながると期待される。
■ 投資家視点の評価 市場アナリストの見方はおおむね前向きである。バンク・オブ・アメリカのレポートは、トリアンの関与がヤナスの収益構造を変革し、2025年度までに営業利益率を現行の30%台から35%超へ引き上げる可能性があると試算する。もっとも、テクノロジー投資の収益化には通常3年から5年を要するとされ、短期的なコスト負担が株主還元を圧迫するリスクも指摘されている。
機関投資家の間では、トリアンの運用ノウハウがヤナスの投資プロセスに直接移植できるかどうかが成否の分かれ目との見方が主流である。ペルツ氏が得意とする事業会社の深堀り分析とヤナスの分散ポートフォリオ運用は手法が大きく異なり、融合の過程で組織文化の摩擦が生じる可能性も否定できない。ディバジCEOは「両社の強みは補完的であり、シナジーの実現に自信を持っている」と述べ、市場の懸念を和らげる姿勢をみせた。
2024年後半にはAIを活用した新ファンドの試験運用が開始され、2025年前半に最初のETF商品が上場する見込みである。アクティブ運用の復権を賭けた実証実験として、同社の動向は運用業界全体の行方を占う試金石となりそうだ。