米国で住宅購入を目指す30代から40代の家計貯蓄は、中央値で8万7000ドルに満たない水準にある。全米の平均値と比較すると、多くの世帯が目標額に対して依然として資金不足に直面している実態が浮き彫りになった。連邦準備制度理事会(FRB)が公表した消費者金融調査(SCF)の最新データからは、頭金準備における世代間格差と、住宅市場へのアクセスが急速に狭まっている状況が読み取れる。貯蓄不足は単なる個人の問題ではなく、住宅ローン金利の高止まりと物件価格の上昇が複合的に作用した構造的な課題だ。

実額で見る世代別の貯蓄中央値

FRBのSCFによると、35歳未満の世帯が保有する貯蓄性資金の中央値はわずか1万1400ドルである。35歳から44歳の層でも中央値は4万5500ドルに留まる。この数字には当座預金や普通預金、マネー・マーケット・ファンド、譲渡性預金など流動性の高い金融資産が含まれるが、退職口座や株式投資は除外されている。全世帯の平均が8万7000ドルを超える中、住宅購入適齢期とされる中核世代の準備額は、その5割から1割強の水準でしかない。

頭金として一般的に推奨される物件価格の20%を想定した場合、全米不動産業者協会(NAR)が2024年12月に報告した既存住宅販売価格の中央値40万4000ドルに対して、必要額は約8万800ドルだ。35歳未満の中央値ではその14%しか賄えず、35〜44歳でも56%を満たすに過ぎない。実需層の多くが購入の入り口に立てていない理由が、ここに凝縮されている。

平均値が映す資産偏在の深刻度

平均値に着目すると、世代間の資産格差はさらに際立つ。35歳未満の平均貯蓄額は5万3000ドルであるのに対し、35歳から44歳では13万7000ドルに跳ね上がる。中央値と平均値の乖離幅が大きいことは、一部の高資産層が全体の数値を押し上げている証左だ。45歳から54歳の平均貯蓄額は17万5000ドルに達し、相続や資産運用の複利効果が顕在化し始める年代であることを示している。

NARのデータでは、初回住宅購入者の典型的な頭金比率は8%程度とされる。40万4000ドルの物件であれば約3万2300ドルで、35歳未満の平均値5万3000ドルなら形式上はクリアできる計算になる。しかし、これは飽くまで平均値であり、実際には過半数の若年世帯が1万ドル台の貯蓄しか持たない現実から目を背けるわけにはいかない。

住宅ローン金利と物価高が奪う購買力

貯蓄不足をさらに深刻化させているのが、FRBの金融引き締め局面が長引く中での住宅ローン金利の高止まりだ。政府系住宅金融機関フレディマックの調査では、30年固定金利は2025年1月時点でも7%台近辺で推移している。月々の返済負担が増大する環境下では、金融機関が求める債務返済比率(DTI)を満たすために、より多額の頭金を用意せざるを得ない。

加えて、消費者物価の上昇は貯蓄の余力を直接的に浸食している。セントルイス連邦準備銀行のデータによれば、食品やエネルギーを除くコア個人消費支出(PCE)価格指数は2024年秋以降も前年同月比2.8%前後で高止まりしている。実質賃金の伸びが物価上昇に追いつかない中、毎月の貯蓄可能額は減少傾向にある。ファイナンシャルプランナーの間では、頭金準備の目安を年収の1倍から1.5倍に引き上げる助言も広がりつつある。

初回購入者を支える制度と限界

こうした状況を受け、連邦住宅局(FHA)が提供する低頭金ローンの利用が拡大している。FHAローンは最低3.5%の頭金で利用可能だが、その分、毎月の住宅ローン保険料が上乗せされる構造だ。40万4000ドルの物件で計算すると、頭金は約1万4000ドルに抑えられる半面、保険料を含めた実質的な月額負担は従来型ローンを上回るケースが多い。低所得層ほど目先の初期費用に引き寄せられ、長期の支払総額が膨らむトレードオフが生じている。

農務省(USDA)による地方住宅開発プログラムや、退役軍人省(VA)の無頭金ローンも選択肢として存在するが、所得制限や居住地域の限定があるため、都市部で働く30代から40代には適用が難しい。州政府単位で初回購入者向けの補助金や税額控除を拡充する動きもあるものの、財源には限りがあり、制度のはざまで取り残される中間層の存在が無視できなくなっている。

日本の住宅政策が示唆するオルタナティブ

この米国の構造問題は、日本の住宅市場にとっても対岸の火事ではない。日本の総務省「家計調査」によれば、30代の平均貯蓄額は約600万円、40代でも約1000万円に留まり、住宅購入時の頭金準備に苦慮する構図は共通する。もっとも、日本では超低金利の住宅ローンと政府系金融機関による保証制度が長年にわたり購入を下支えしてきた経緯がある。米国でも連邦住宅金融庁(FHFA)が保証するコンフォーミングローンの上限引き上げが検討されており、日本型の政策金融の一部を参照する動きが金融シンクタンクで議論され始めている。

住宅着工統計を分析するハーバード大学住宅研究センターは、供給不足の解消なくしてアフォーダビリティ問題の抜本改善はないと指摘する。単身世帯の増加やリモートワークの定着により、居住面積の広い郊外物件への需要は構造的に拡大している。貯蓄の中央値が示す実態は、政策と市場の両面から住宅取得のハードルを下げる仕組みが急務であることを改めて突きつけている。