人工知能(AI)開発企業OpenAIの共同創業者で社長を務めるグレッグ・ブロックマン氏は3月31日、米連邦裁判所で行われた審問において、自身が保有する同社株式の評価額が約300億ドルに上ることを明らかにした。その上で、この巨額の資産価値はOpenAIの成長に捧げた「血と汗と涙の結晶」であると述べ、その正当性を強く擁護した。この発言は、営利法人への組織変更を巡る法廷闘争の中で飛び出したものだ。

ブルームバーグによると、ブロックマン氏は証言の中で、2015年のOpenAI設立から現在に至るまでの約10年間、給与の大部分を株式で受け取ってきたこと、そして会社の創業と成長に自らのキャリアのすべてを賭けてきたことを説明したという。同氏の持ち株比率が何パーセントかは明らかにされていないが、OpenAIの企業価値が直近の資金調達ラウンドで3000億ドルと評価されていることを踏まえると、個人保有株としては突出した規模であることが浮き彫りになった。

法廷で明かされた創業者の持分規模

今回の証言は、イーロン・マスク氏がOpenAIとサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)らを相手取って起こした訴訟の一環で行われた。マスク氏は、OpenAIが非営利の研究機関としてスタートしながら、巨額の利益を追求する営利企業へと変貌していると批判し、移行プロセスの差し止めを求めている。

裁判でブロックマン氏は、OpenAIの初期構想から製品開発までを主導してきた中心人物の一人として、現在の株価評価は過去の献身的な貢献に対する当然の帰結だと主張した。巨額の株式報酬は、シリコンバレーにおいて優秀な人材を引き抜き、競争の激しいAI業界で開発競争を勝ち抜くために不可欠なインセンティブ設計の一環であるとの見方を示したことになる。

OpenAIの内部事情に詳しい関係者によれば、評価額3000億ドルという数字はソフトバンクグループが主導する巨額投資ラウンドを反映したものであり、ブロックマン氏の保有株は共同創業者として創業時から蓄積した議決権付き株式と、その後付与された利益分配ユニットで構成されている可能性が高い。

非営利から営利へ、迫られる組織変革のジレンマ

OpenAIは現在、非営利法人が営利子会社を支配する複雑な統治構造をとっている。しかし、巨額のAI開発資金を調達し続けるには、この構造が障害になっているというのが経営陣の共通認識だ。社長のブロックマン氏とCEOのアルトマン氏は、完全な営利企業への移行(いわゆる「営利転換」)こそが、GoogleやAnthropicといった競合と互角に渡り合うための唯一の道だと主張している。

法廷でブロックマン氏は、初期の非営利モデルでは、大規模言語モデルの開発に必要な数千億円規模の計算資源を調達することが物理的に不可能だったと振り返った。AIの安全性を確保しながら人類全体に利益をもたらすというOpenAIの設立趣意書に掲げられた理想は、もはや従来型の非営利ガバナンスでは達成し得ない段階に来ているというのが、同氏の言い分である。

ところが、この組織変更はマスク氏の法的異議申し立てによって停滞している。カリフォルニア州の裁判所は近く、営利転換の差し止めの可否について判断を示す見通しだ。

マスク氏との対立深まる、創業理念の解釈に溝

ブロックマン氏の証言は、OpenAIの創業期を共にしたマスク氏との決定的な決別を改めて印象づけるものとなった。裁判資料によれば、マスク氏はOpenAIが本来の使命を放棄し、マイクロソフトの事実上の支配下に入って閉鎖的な商業利益を追求していると非難している。一方、ブロックマン氏はその批判を真っ向から否定し、OpenAIが公開する技術やAPIの普及実績を挙げて反論した。

ウォール・ストリート・ジャーナルが入手した電子メールの記録によると、マスク氏自身も2017年にはOpenAIの営利化を提案していたとされている。ブロックマン氏はこれを引き合いに出し、マスク氏の現在の主張には一貫性がないとの立場を明確にした。理念をめぐる創業者間の亀裂は、完全に修復不可能な段階に達している。

日本企業のAI投資戦略に与える教訓

一連のOpenAIをめぐる統治構造の混乱と巨額の株式報酬問題は、日本企業のAI投資戦略やスタートアップ経営にも重い課題を突きつけている。

ソフトバンクグループはすでにOpenAIへの大型出資に加え、米国でのAIデータセンター事業「スターゲート・プロジェクト」への参画を表明している。しかし、ブロックマン氏が法廷で吐露したように、創業者の個人資産と企業価値があまりに巨大化した場合、公共性とのバランスをどう取るのかは、出資者にとっても看過できないリスク要因となる。

非営利の公益性と営利の成長志向を両立させようとするOpenAIの壮大な実験は、日本国内で「官民ファンド」や「大学発ベンチャー」の出口戦略を設計する上でも、直接的な参照事例となる。巨額の株式報酬が個人に帰属することの是非は、日本の商慣行や税法とも相容れない部分があり、ソフトバンクをはじめとする日本の投資家は投資先のガバナンス構造をより一層精査する必要に迫られる。

AI業界を二分する巨額報酬の正当性と安全性への懸念

ブロックマン氏の「血と汗と涙」という表現は、シリコンバレーの起業家精神を象徴する言葉として法廷の外でも波紋を広げている。AI研究者の間からは、300億ドルという個人資産が一人の技術者に集中することに対して、AIの安全性研究や公益への資源配分がおろそかになるのではないかとの懸念の声が上がっている。

一方で、ベンチャーキャピタル業界からは当然の評価だとの見方も出ている。アナリスト予測では、AI市場は2027年までに1兆ドル規模に達するとされ、その中核企業の設計者には相応のリターンがあってしかるべきというロジックだ。法廷闘争の帰結は、営利転換の是非を超えて、人類の未来を左右する技術を誰がどうコントロールし、その果実を誰が受け取るべきかという本質的な問いに対する一つの司法判断となる。