米商業施設運営最大手のサイモン・プロパティ・グループは、Z世代の来店客数と、彼らをターゲットとするブランドからの出店需要が想定を上回る勢いで拡大していると明らかにした。主力モールへの集客力が構造的な小売不況を覆しつつある。
リアル店舗を選ぶZ世代の消費行動
同社の決算説明会でイーライ・サイモンCEOは、モールの中核的なトラフィック成長をけん引するのがデジタルネイティブ世代である点を強調した。同氏によると、Z世代の来店頻度は前年比で2桁台の伸びを示し、特に衣料品やコスメ、限定体験型コンテンツを目当てにした来訪が目立つ。従来の「若年層はオンライン回帰」という定説を裏切り、むしろリアルな場での発見や試着、友人との共有時間に強い価値を見いだす行動が鮮明になった。
調査会社コアサイト・リサーチの分析でも、15〜26歳層の購買経路はSNSで情報を得た後に実店舗で確認するパターンが6割を超え、EC単独での完結率を逆転している。サイモンはこの流れを捉え、TikTokやインスタグラム経由で話題化するD2Cブランドを優先的に誘致するテナント戦略を強めている。
出店攻勢をかけるデジタル発ブランド群
Z世代の集客効果に着目したブランド側の動きも加速する。サイモンのポートフォリオには、かつてネット専業だったアパレルのエイブリー・ロウ、ビューティーブランドのグロウシー、スニーカーのストライド・ラボなどが続々と実店舗を開設した。これら企業はリアル接点を単なる販売機会ではなく、消費者データの収集拠点やブランド世界観の体験場と位置づける。サイモンCEOは「彼らはテナント料をコストではなくマーケティング投資として精査しており、好調な売上坪効率が長期契約の原動力だ」と説明した。
同社が開示した資料によると、これら新興ブランドの坪当たり売上高は既存の総合アパレルチェーンを平均で27%上回り、モール全体のテナント売上高は2023年第4四半期に前年同期比5.4%増を記録。空室率も4.1%と過去10年で最低水準まで低下した。
実店舗の収益構造を補強するハイブリッド施策
サイモンはZ世代来店者の滞留時間を延ばすため、施設のハイブリッド化にも資金を振り向ける。2024年はアパレル売り場の隣に会員制フィットネスやクリエイター向けポップアップスタジオを複合させ、購買以外の目的地化を推進した。この改装によって対象モールの平均滞在時間は約40分伸び、フードコートや物販の回遊率が相乗的に改善したと開示されている。
買い物に行くというより、コンテンツを消費しに行く空間に変わったことがZ世代の再来訪意向を高めている。アナリストの間では、サイモンの1平方フィート当たり売上高が2025年に680ドルを超えるとの強気予測も出始めた。
商業施設淘汰を生き抜く選別投資の論理
全米のモールをめぐっては、グリーン・ストリートの推計で今後5年間にB・Cランク施設の約15%が閉鎖または用途転換を迫られるとされる。サイモンはこの淘汰局面をむしろシェア拡大の好機と捉え、Aランク立地への投資を集中させる方針だ。2024年の改装・増床投資額は総額12億ドルに達し、うち過半がZ世代訴求を目的としたコンセプトフロアの新設に充当された。
日本市場が参考にすべき選別的モール再生の教訓
日本の商業施設運営企業にとっても示唆は大きい。三井不動産や三菱地所などが運営する大型ショッピングセンターでは、テナント構成がいまだ中高年層向けアパレルに偏重するケースが散見される。サイモンの戦略は、SNS起点のD2Cブランド誘致と体験型複合投資によって若年層トラフィックを再獲得できることを示した。国内でもららぽーとやマークイズの一部旗艦物件は同様の改装に着手しているが、テナントリーシング速度と投資規模ではなお差がある。淘汰が進む市場で選別的な投資判断を誤らなければ、リアルモールはEC全盛期においても成長資産たりうるというサイモンの実績は、日本のディベロッパーに再考を促す材料となる。