次世代地熱技術を開発する米スタートアップ、Fervo Energyは、新規株式公開(IPO)で最大13億ドルを調達する見通しだ。時価総額は最大65億ドルに達する可能性があり、クリーンテック分野で今年最大級の上場案件となる。
同社は石油ガス掘削の技術を応用し、従来は地熱発電に不向きだった地域でも商業化を可能にする「拡張型地熱システム(EGS)」を手がける。規制当局への提出書類によると、株式の売出価格は仮条件として1株あたり34〜38ドルを想定。新規と既存株主の売却分を合わせ約3,400万株を発行する。
掘削革新で地熱の地理的限界を突破
FervoのIPOが市場の注目を集めるのは、その技術が地熱発電の根本的な制約を解消しつつあるためだ。 従来の地熱発電は、地下に高温の蒸気や熱水が豊富に存在する火山地帯など、限られた地域でしか経済的に成り立たなかった。同社は水平掘削や水圧破砕といった、シェール革命で磨かれた石油ガス開発の手法を転用し、高温岩体に人工的な亀裂を作り出す。これにより、従来は不適とされた地域でも発電用の熱源を確保できるようになった。
米国エネルギー省によれば、EGS技術で開発可能な地熱資源量は、既存の自然熱水型の約30倍に達すると試算されている。Fervoは既にユタ州で400メガワット規模のプロジェクトを進めており、グーグルや電力大手のサザン・カリフォルニア・エジソンといった顧客との長期電力購入契約を取り付けている。
赤字先行でも急成長する売上高
提出書類が明らかにした財務内容は、先端技術企業の典型的な成長軌道を示している。 2024年12月期の売上高は3,100万ドルと、前年の1,500万ドルから倍増した。しかし研究開発と大規模な掘削投資が重しとなり、純損失は1億4,600万ドルに拡大している。2023年は1億700万ドルの赤字だった。
アナリスト予測ではなく実際の契約ベースの数字として注目されるのは、将来売上につながる契約残高だ。2025年2月末時点で電力販売契約の総額は約91億ドルに上り、このうち確認発注残は16億ドルに達する。いわば建設中の発電所が生み出す将来キャッシュフローが数百倍の規模で待ち受けている計算になる。
過去3年で7億ドル超を調達済み
IPOに先立つ非公開市場での資金調達額も、機関投資家の期待の高さを物語っている。 規制当局への提出書類によれば、2022年以降のベンチャーキャピタルや戦略的出資者からの調達は累計7億ドルを突破した。2023年にはデボン・エナジー、三菱重工業などのエネルギー・重工大手に加え、ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ、カプリコーン・インベストメント・グループなどの気候テック特化ファンドが相次いで出資した。
主幹事はゴールドマン・サックスとJPモルガンが務める。IPO市場でクリーンテック銘柄の大型案件が再び動き出すかどうかを占う試金石として、引受需要の行方が注目されている。
日本企業の地熱戦略にも波及か
Fervoの技術と規模の拡大は、地熱資源量で世界第3位とされる日本市場にも示唆を与える。 三菱重工業はすでに同社への出資を通じてEGS技術の知見獲得を進めている。日本国内では国立研究開発法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がEGSの実証研究を長年手がけるが、商用化の規模感では米国勢が先行している構図だ。
国内の地熱発電は温泉事業者との調整や国立公園規制など開発リードタイムの長さが課題だが、Fervoの掘削効率化技術が確立すれば、日本の潜在資源を経済的に引き出す道筋が開ける可能性がある。政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、再生可能エネルギーの安定電源として地熱への再評価が進む契機になるかどうかが焦点となる。
データセンター需要がもたらす追い風
Fervoの成長戦略を支える構造的な要因として、人工知能向けデータセンターの爆発的な電力需要を見落とすことはできない。 国際エネルギー機関(IEA)の推計によれば、世界のデータセンターの電力消費量は2026年までに1,000テラワット時を超え、2022年比で約2.5倍に拡大する見通しだ。24時間365日安定したカーボンフリー電力を求めるテクノロジー企業にとって、地熱は太陽光や風力の間欠性を補完する戦略的な選択肢となる。
Fervoがグーグルと結んだ電力購入契約は、まさにこの需給構造の変化を先取りしたものだ。発電所の稼働開始が2026年とされるプロジェクトに対し、長期契約で収益を固定化するビジネスモデルは、キャッシュフローの予見性を重視する公開市場の投資家にとっても評価材料となる。IPOで調達した資金は、次なるネバダ州やカリフォルニア州での掘削拡大に充当される計画である。