米調査会社BTIGは2025年4月、携帯型MRI装置を手がけるHyperfine, Inc.(HYPR)のカバレッジを新規開始し、強気の投資判断を提示した。目標株価は設定されていないが、初回レポートでは同社の低磁場MRI技術が画像診断のアクセス障壁を根本から変える点を高く評価している。
超低磁場MRIがもたらす診断革命
BTIGのアナリスト、ライアン・ジマーマン氏が発表したリポートによると、Hyperfineの携帯型MRI「Swoop」は0.064テスラの超低磁場で動作しながら、従来の高磁場装置では困難だったベッドサイドでの即時撮像を実現する。ジマーマン氏は2025年の売上高を約1600万ドル、2026年には3200万ドル超へ倍増するとの予測を示した。
最大の革新性は、機器価格と設置コストの劇的な低減にある。従来型の1.5テスラMRIは1台あたり1億〜2億円、据付工事だけで数千万円かかる。Swoopは本体価格を約3500万円に抑え、一般電源で稼働し、特別なシールドルームも不要だ。この価格破壊が新興国や地方医療機関にとって診断能力の民主化を意味するとジマーマン氏は強調する。
救急医療でのガイドライン改定が追い風
転機となったのは米国心臓協会(AHA)と米国脳卒中協会(ASA)による2024年のガイドライン改定である。両団体は急性期脳梗塞の画像診断において、従来のCTや1.5テスラ以上のMRIに加え、ポータブル低磁場MRIの臨床的有用性を初めて公式に認知した。
Hyperfineによると、Swoopは2025年3月時点で全米150以上の医療機関に導入済みで、救急外来での脳卒中プロトコルへの組み込みが加速している。脳梗塞の診断で最も重要な「Time is Brain」の原則において、装置が患者のもとに移動できる機動性は30分以上の時間短縮をもたらし、血栓溶解療法の適応拡大に直結するケースが増えている。
ジマーマン氏は、この適応拡大により2027年度の米国内の設置台数が500台を突破するとの強気シナリオを描く。BTIGの需要予測では、脳外科手術中のリアルタイムモニタリングや新生児集中治療室(NICU)への応用も成長ドライバーとして算入されている。
小型化技術を支えるAI再構成エンジン
Hyperfineの競争優位を支える技術的基盤は、超低磁場で得られるシグナルをディープラーニングで再構成する独自のAIアルゴリズム群だ。2024年にFDA承認を取得した第8世代ソフトウェアでは、3テスラ装置に迫る画質を特定のシーケンスで達成した。
ジマーマン氏は、同社が保有する120件超の特許ポートフォリオと、イェール大学発の独自磁石設計技術を指摘し、「今後3年間で追随可能な競合は出現しない」との見方を示す。イーロン・マスク氏のNeuralinkなどが手がける脳関連デバイスとは異なり、Hyperfineは外科的侵襲を伴わない診断機器として規制ハードルが低い点も成長期待を裏付ける材料だ。
もっとも、同社の2024年12月期決算では売上高が1380万ドルにとどまり、純損失は4300万ドル超を計上している。BTIGは黒字化の時期について明示的な予測を示していないが、「2026年後半には粗利率が60%を超え、損益分岐点への明確な経路が見える」と指摘する。
日本市場への波及と国産技術への刺激材料
Hyperfineの動向は日本の医療機器市場にも無縁ではない。現在、日本では大分県佐伯市や長野県など過疎地域でMRI非設置病院が約3割にのぼり、画像診断の地域格差が慢性課題となっている。Swoopの価格帯と設置容易性は、へき地医療や在宅診療の現場にMRIをもたらす潜在力を持つ。
日本では2025年、医療機器承認審査を担うPMDA(医薬品医療機器総合機構)がポータブルMRIに関する審査ガイドライン整備に着手した段階だ。キヤノンメディカルシステムズや富士フイルムヘルスケアなど国内大手も低磁場技術の研究を進めているが、実用化ではHyperfineが2〜3年先行していると医療機器アナリストの間ではみられている。
BTIGのジマーマン氏はアジア太平洋市場について、「まずはインドと東南アジアの私立病院チェーンへの展開が先行するが、2027年以降に日本市場での本格展開がありうる」と付言。国内医療機器メーカーにとっては競合脅威であると同時に、低磁場MRIという新セグメントを可視化したパイオニアとしての意義も大きい。
同社株は2025年4月のレポート発表後、時間外取引で一時4.2%上昇。年初来では約22%高で推移している。赤字先行の成長株であるためボラティリティは高いが、BTIGの参入で機関投資家の関心が一段と高まる公算が大きい。