中国の金融大手、アント・グループの四半期利益が前年同期比で79%減少した。人工知能(AI)や医療分野への積極投資が収益を圧迫し、同社が進める技術主導の構造転換がにわかに試練の様相を呈している。

AI基盤と大規模言語モデルへ開発費が急増

アント・グループの大幅な減益は、巨額の技術投資に起因する。ロイターの試算によると、2024年10-12月期の純利益は推定約4億元(約8000万ドル)にとどまり、前年同期の19億元から急減した。アントが株式の3分の1弱を保有するアリババ・グループの決算開示から逆算されたこの数字は、市場予想を大きく下回る。

投資の中心はAIだ。アントは決済サービス「アリペイ」の基盤に加え、医療保険や大規模言語モデル(LLM)向けのAI開発を加速している。特に医療分野では、画像診断支援や保険金請求の自動審査システムに経営資源を集中投入している段階にある。加えて、独自のLLM「Bailing(百霊)」の研究開発費が四半期単位で増大しており、クラウド上の推論基盤を拡張する設備投資も収益を圧迫した。

医療保険とデジタルヘルスケアへの布石

アントの戦略転換を象徴するのが、医療保険事業への傾斜だ。同社は中国最大のオンライン相互扶助プラットフォーム「相互宝」を2022年に閉鎖したが、その後は中国政府の規制枠組みに適合した保険代理事業に注力している。現在はAIによる疾病リスク予測モデルを保険商品の設計に応用し、提携する約100の保険会社に技術提供するビジネスモデルに移行しつつある。

デジタルヘルスケア領域では、病院予約やオンライン診療の決済データを匿名化したうえで解析し、個人の健康状態に応じた商品推奨を行うシステムを構築中だ。この事業を支えるのが、独自開発のAIアルゴリズムである。ユーザーの体位測定や生活習慣データを分析する機能はすでにアリペイのミニアプリとして実装され、月間アクティブユーザー数は2億人を突破したと会社側は説明している。

フィンテック規制の残影と海外展開の遅延

巨額投資の裏には、過去の規制強化の影響も横たわる。アントは2020年の新規株式公開(IPO)が土壇場で差し止められて以降、当局の指示に従い金融持ち株会社への移行を進めてきた。個人信用スコアリング事業「芝麻信用(セサミクレジット)」は国営企業との合弁に再編され、消費者向け融資の与信審査には中国人民銀行傘下の信用情報機関との連携が必須となっている。

こうした規制遵守のためのシステム改修コストは、四半期ごとに約2億元に上るとみられる。本来であれば収益の柱となるべき海外展開も、各国のデータ保護法制への対応に追われて遅延している。東南アジアで展開する越境決済ネットワーク「Antom(アントム)」の加盟店拡大は計画比で約30%の遅れが生じており、AIを活用した不正検知システムの現地最適化に想定以上の工数を費やしているのが実情だ。

日本企業への影響、中国人観光客の決済データ連携で変動も

アントの経営変動は、日本企業にも間接的な影響を与える可能性がある。アリペイは日本国内で約50万店舗が導入しており、インバウンド消費の支払いインフラとして定着している。アントが2025年から本格展開を計画するAIレコメンド機能は、訪日中国人観光客の位置情報と購買履歴を分析し、周辺店舗のクーポンを自動配信する仕組みだ。

大手決済代行会社の幹部は「アントの投資が開発遅延につながれば、日本側加盟店が期待する集客効果の発揮時期も後ろ倒しになる」と指摘する。一方で、医療データ連携のノウハウが訪日メディカルツーリズムの接客システムに転用される可能性もあり、国内の医療機関や旅行会社は動向を注視している。

アリババとの連携強化が打開策に

減益局面の打開に向け、アントはアリババグループとの連携を強めている。アリババのクラウド部門とは、LLMの共同トレーニングに関する契約を締結。これにより、これまで別々に調達していた計算資源を統合し、開発コストを約15%削減できる見通しが立った。さらに電子商取引プラットフォーム「淘宝(タオバオ)」との決済データ共有範囲を拡大し、加盟店向けのAI融資審査モデルの精度を向上させる計画だ。

市場アナリストの予測では、こうした合理化策の効果が表面化するのは2025年10-12月期以降となる。短期的には研究開発費の高止まりが続く公算が大きく、アントの持続的な収益回復には医療・AI事業の商業化が不可避の条件となる。