著名投資家ビル・アクマン氏が率いるパーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントは、マイクロソフトの株式を新たに取得した。株価下落を好機と捉えた投資であり、アクマン氏は同社の強靭な事業基盤が市場の評価以上だと断言している。
アクマン氏は2月13日、投資家向けの四半期レターでこの事実を明らかにした。取得規模や時期の詳細は非公開だが、マイクロソフト株が過去最高値から約10%下落したタイミングでのエントリーとなる。同氏はレターのなかで「テクノロジーはもはや一産業ではなく、あらゆるビジネスに深く組み込まれている」と述べ、マイクロソフトの成長持続性に強い確信を示した。
個人消費関連に集中していたポートフォリオの転換点
パーシング・スクエアのポートフォリオは長らく、チポトレ・メキシカン・グリルやヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス、レストラン・ブランズ・インターナショナルといった個人消費関連銘柄が中核を占めてきた。アクマン氏は消費者支出の堅調さに賭ける戦略で高いリターンを上げてきたが、今回のマイクロソフト投資は明確な方向転換を示唆する。
同氏はレターで「当社がこれまで投資してきた大半の企業は消費者向けだが、それらの企業でさえITインフラへの依存度を急速に高めている」と指摘。小売、飲食、宿泊といった業態のデジタルトランスフォーメーションが加速するなか、その基盤を支えるマイクロソフトの重要性が増しているとの見方を披露した。
クラウドとOfficeがもたらすサブスクリプション収入の粘着性
アクマン氏がマイクロソフトを「市場の認識以上に強靭で回復力がある」と評する根拠は、同社の収益構造にある。とりわけエンタープライズ向けのMicrosoft 365とAzureクラウドプラットフォームが生み出すサブスクリプション収入は、景気変動に対して高い耐性を持つ。
企業が一度マイクロソフトのエコシステムに移行すると、電子メール、文書作成、データ分析、コラボレーションツール、セキュリティ管理までを同社製品に依存する状態となる。このスイッチングコストの高さが解約率を極めて低く抑えており、アクマン氏は「人件費や家賃と同じく、もはや削減不能な事業インフラコストだ」と分析する。
調査会社ガートナーによると、世界のパブリッククラウドサービス支出は2025年に前年比21%増の7,230億ドルに達する見通しだ。この巨大市場でアマゾン・ウェブ・サービスと首位を争うAzureの成長余地はなお大きい。
AI分野での優位性と資本規律を両立
アクマン氏のレターは、マイクロソフトの人工知能戦略にも言及している。OpenAIとの提携を通じて大規模言語モデルをいち早く製品に統合したスピード感に加え、資本配分の巧みさを高く評価した。
マイクロソフトは2023年から2024年にかけてOpenAIに総額130億ドル規模の投資を実行したと報じられている。しかし同時に、2024年度の設備投資額は約500億ドルと急拡大したものの、営業利益率は44%前後を維持する見込みだ。アクマン氏は「巨額のAI投資を続けながら利益率を高水準に保てる企業は極めて稀だ」とコメントし、サティア・ナデラCEOの経営手腕に言及した。
市場ではAI関連支出の収益化に時間がかかるとの懸念から、マイクロソフトを含むハイテク大手の株価は2024年後半に伸び悩んだ。アクマン氏はこの株価調整を「長期投資家にとって理想的なエントリーポイント」と位置づけた格好だ。
パーシング・スクエアの運用資産と投資哲学
パーシング・スクエアの運用資産は約190億ドル。アクマン氏は集中投資で知られ、通常10〜12銘柄に絞ったポートフォリオを構築する。同氏が主導する投資は株主提案や経営陣との対話を通じて企業価値向上を促すアクティビスト手法が特徴だが、マイクロソフトに対しては純粋な長期保有の方針を示唆している。
2024年の同ファンドのグロスリターンは約23%で、S&P 500種株価指数のトータルリターンを数ポイント上回ったとされる。マイクロソフト取得以前の主要保有銘柄は、チポトレ、ヒルトン、アルファベット、カナディアン・パシフィック・カンザスシティなどだった。
日本市場への示唆と時価総額上位企業への再評価
アクマン氏のマイクロソフト投資は、日本市場においても示唆に富む。現在、東京証券取引所の時価総額上位にはトヨタ自動車やソニーグループ、キーエンスといった製造業・エレクトロニクス企業が並んでいる。しかしITサービスやクラウド分野で強固なサブスクリプション基盤を持つ企業は限定的だ。
マネックス証券のチーフ・ストラテジスト、広木隆氏は「日本企業のなかでも、業務ソフトウェアやデータセンター事業を展開する企業の再評価余地は大きい」と指摘する。アクマン氏がテクノロジーの普遍的浸透を投資テーマに据えたことで、日本でも同様の視点から銘柄選別が進む可能性がある。
アクマン氏のレターは「今後10年間で、AIとクラウドを中核とする企業の競争優位性はさらに拡大する」との一文で締めくくられている。世界的なインフレ沈静化と利下げサイクルへの移行が見込まれる2025年、長期視点の資金がどのような配分戦略を取るのか。パーシング・スクエアの一手は、機関投資家のポートフォリオ再構築の端緒となるかもしれない。