英Lovehoney Groupは23日、自社オンラインストアで販売する主力アダルトグッズとランジェリーを対象に、最大15%の期間限定ディスカウントを開始した。割引コードの適用で、ベストセラーの玩具やカップル向けギフトセットが値引きされる。同社は北米と欧州で原材料費と物流コストの上昇を理由に、今秋にも一部商品の価格改定を行う方針を示しており、実質的な値上げ前の駆け込み需要を取り込む狙いがあるとみられる。

対象となるのは、Lovehoneyブランドのバイブレーターや吸引型デバイスなど人気ランキング上位30品目を含む約200点。さらに、デートナイト向けのゲームセットや、バスグッズとキャンドルを組み合わせたセルフケアキット、カップル向けプレイアイテムを詰め合わせたギフトボックスも割引の対象に加えた。プロモーションコードを決済時に入力すると、通常価格から自動的に15%が差し引かれる仕組みで、期間は現地時間で5月1日まで。利用は1アカウントにつき1回限りとし、他の割引やセール品との併用はできない。

Lovehoneyの親会社であるLovehoney Groupは2021年、スイスの競合ブランドWOW Tech Groupと経営統合し、世界最大級のアダルトグッズメーカーとなった。ドイツに本社を置き、WomanizerやWe-Vibeといった高級ブランドを傘下に収める。調査会社Grand View Researchによると、世界のアダルトグッズ市場は2023年に391億ドル規模に達し、年平均成長率は8%を超える。同社はこの急成長市場で、直販チャネルを軸に据えた戦略を加速させている。

値上げ前の需要喚起策としてのディスカウント

今回の15%オフは単なる販促キャンペーンにとどまらず、秋以降に予定される値上げへの布石という側面が強い。Lovehoney Groupの2024年6月期決算説明資料によると、主力製品に使われるシリコーン素材と電子部品の調達コストは前年同期比で12%上昇した。加えて、北米向け海上輸送のコンテナ運賃も高止まりしており、営業利益率に下押し圧力がかかっている。

アナリスト予測では、値上げ幅はおおむね5〜8%の範囲に収まる見通しだ。ただし、同社が展開するWomanizerのプレミアムラインはブランド価値を維持するために価格を据え置く一方、Lovehoneyのエントリー価格帯で調整が入る可能性が指摘されている。割引コードの利用率が高まれば、在庫圧縮と同時に新規顧客の名簿獲得にもつながる。同社のマーケティング責任者は「初回購入者の約4割が6カ月以内にリピートする」というデータを社内向けに共有しており、値上げ前の顧客基盤拡大が中長期的な収益安定に寄与するとの判断が透ける。

アダルトグッズ市場に起きている3つの構造変化

業界全体では、3つの構造変化が同時進行している。第一に、女性向けウェルネス商品への需要シフトだ。Grand View Researchのセグメント分析では、2023年に女性用バイブレーターカテゴリーが市場全体の46%を占め、初めて男性向けカテゴリーを逆転した。Lovehoneyが今回の割引対象に吸引型トイやセルフケアキットを多数含めたのも、この潮流を反映している。

第二に、カップル向け遠隔操作デバイスの伸びである。We-VibeのWi-Fi対応シリーズは、パンデミック中に遠距離恋愛層の取り込みに成功し、その後も年率15%で販売数量を伸ばす。ロックダウン解除後も利用習慣が定着した形だ。第三に、小売チャネルの再編が挙げられる。米国ではWalmartやTargetが一部店舗でアダルトグッズの棚を拡大し、英国ではBootsがオンライン販売を強化するなど、マスリテーラーの参入が相次ぐ。

日本市場への影響とTENGAとの競合関係

日本の国内市場にとっても、Lovehoneyの値上げとディスカウント施策は無視できない。同社製品はAmazon.co.jpや日本の専門店ECを通じて並行輸入の形で流通しており、値上げが実施されれば国内小売価格にも波及する可能性がある。一方、現在の15%割引を利用して海外サイトから直接購入する消費者が増えれば、国内正規代理店の価格競争力は一時的に低下する。

国内最大手のTENGAは、2023年に海外売上比率を初めて5割に乗せ、Lovehoneyの牙城である欧州市場でシェアを伸ばしている。Lovehoneyが値上げに踏み切れば、相対的に価格競争力が低下し、TENGAをはじめとする日本メーカーに欧州でのシェア拡大余地が生まれるとの見方もある。もっとも、Lovehoney Groupの欧州でのブランド認知度は圧倒的であり、ディスカウントで囲い込んだ顧客がそのまま値上げを受け入れる可能性も高い。市場関係者からは「ブランド力で劣る日本勢にとって、価格面だけでの攻勢には限界がある」との指摘が出ている。

セルフケア消費に取り込まれるアダルトグッズ

今回のプロモーションで注目すべきは、製品カテゴリーの広がり方である。割引対象には、ラグジュアリーなバスオイルやマッサージキャンドルといった、従来のアダルトグッズの枠を超えたアイテムが含まれる。これは、アダルトグッズの購買行動が「セルフケア消費」や「ウェルビーイング消費」に吸収されつつある兆候だ。

消費財アナリストの間では、高級スキンケアブランドとアダルトグッズメーカーのコラボレーションが次のトレンドになるとの予測がある。Lovehoney Groupはすでに2023年、英国のオーガニックコスメブランドと共同開発したマッサージオイルを試験販売しており、今回の割引キャンペーンを通じて非アダルト層へのリーチを図る戦略が読み取れる。値上げの前にブランドの裾野を広げ、生活者の日常に溶け込む存在へとポジションを変えようとする同社の動きは、業界の次の10年を占う試金石となる。