NTTドコモは、全社横断で顧客体験を評価・改善する「CX向上委員会」を立ち上げ、サイバーエージェントと協働している。両社は常駐支援を通じて、上流の設計段階からUI/UX品質を組み込む開発プロセスへの転換を進める。巨大なユーザー基盤を持つ通信キャリアが、外部の専門チームと現場レベルで並走し、組織意識と開発手法の変革を図る事例は、国内の大企業におけるデジタル変革の一つのモデルケースとなる。

全社横断「CX向上委員会」が発足した構造的背景

2024年10月、NTTドコモは各プロダクトの顧客体験を評価・改善する「CX向上委員会」の第1回を開催した。背景には、経営体制の変更に伴い掲げられた「顧客起点の事業運営」という方針がある。ドコモは創業以来、全国のドコモショップを通じて収集した顧客の声を改善に活かす仕組みを持っていたが、SNSが普及した現代において、日常的な使いづらさや細かな不満を拾いきれないという課題が顕在化していた。通信回線や決済など大規模事業を複数抱える組織の縦割り構造も、横断的な顧客体験の改善を難しくしていた。委員会は、ショップの意見やSNSの反響、社員の気づきまでを集約し、組織の壁を越えた議論を促す場として機能し始めている。

常駐支援が生む現場の信頼とアジャイル開発への布石

両社の連携において特徴的なのが、サイバーエージェントのメンバーがドコモのオフィスに常駐し、現場と日常的に並走している点である。対談では、ある主要アプリのUI/UX評価を巡り現場の担当部署と緊迫した議論が起きた際、常駐メンバーが即座に自社のトップクリエイターを招き、直接対話の場を設けたエピソードが語られた。「ABEMA」の開発を手掛けたクリエイターの参画が、現場の受け止め方を変え、本質的な改善議論へと発展したという。また、デザインが「聖域化」し、周囲が提案を遠慮する心理的ハードルを解消するため、UXデザインを誰もが参加できる領域と捉え直す丁寧なコミュニケーションが重視されている。

設計段階から始まる品質起点の開発プロセス

今回の協業により、ドコモの開発プロセスは従来のウォーターフォール型から変化を見せている。象徴的な事例として、新規アプリの開発計画において、社内会議で「設計段階から外部の専門的視点を入れて客観的な評価を受けること」が承認条件とされた。従来はリリース直前のチェックが一般的で、スケジュールを優先するあまり品質の微調整が後手に回る構造があった。しかし今回は、早期にサイバーエージェントから100項目近い改善提案がなされ、設計段階での修正が可能になった。この動きは、納期が最優先されがちだった開発プロセスにおいて、品質の優先度を引き上げる転換点であり、データに基づき継続的に改善を繰り返すアジャイル型への移行を示唆する。

大規模組織のデジタル変革が示す産業への含意

数千万人のユーザー基盤を持つ通信キャリアが、プロダクトのUI/UX品質を経営課題と位置づけ、外部パートナーと常駐レベルで協業する形態は、国内の大企業におけるデジタルトランスフォーメーションの一つの方向性を示している。内製化か外部委託かという二分論ではなく、外部の専門性を組織内部に溶け込ませ、開発プロセスの上流から変革を促す手法は、他の大規模事業会社においても参照される可能性がある。現時点では、具体的な数値目標や効果測定の詳細は明らかにされていないが、全社的なデザインガイドラインの策定が進んでいる点から、取り組みは一過性のコンサルティングではなく、組織の仕組みそのものを変える方向に向かっているとみられる。