サイバーエージェントが運営する動画配信サービス「ABEMA」は、第二期となる新卒アナウンサーの採用を開始した。第一期以来、約10年ぶりの採用再開である。今回の発表は、AIによる自動読み上げや映像生成技術がメディア現場に浸透する中で、生身のアナウンサーに何を求めるのかという基準を、企業が自ら言語化したドキュメントとして読むことができる。
10年ぶり採用再開までの経緯と組織構造
ABEMAのアナウンス室は、開局から2年後の2018年に発足した。第一期のアナウンサーは、先行する地上波テレビ局とは異なり、社内に指導する先輩も標準業務フローも存在しない状態からスタートした。衣装の手配から番組ごとの動き方まで、すべてを手探りで構築してきたという。その一人である西澤由夏は、営業職からの社内異動を経てアナウンサーに就いた経歴を持つ。このような内部人材の再配置によるキャリア形成は、サイバーエージェントの社内流動性の高さを示す事例でもある。10年ぶりの新卒採用再開は、こうしたゼロベースで構築された組織基盤が一定の完成をみたことを示唆する。
AI技術の進展とアナウンサー要件の再定義
AI音声合成やテキスト読み上げ技術が急速に精度を高める現在、定型的な原稿を噛まずに読むことの価値は相対的に低下している。この点について、西澤は「アナウンススキルは、やる気さえあれば場数で身についていく」と明言し、発声技術そのものよりも、現場のプロデューサーやキャスティング担当から「またこの人と仕事をしたい」と思わせる人間力こそが、仕事の起点になると指摘する。これは、機械による代替が進む領域と人間が優位性を保つ領域の境界線を、採用側がどのように引き直しているかを示す一例である。
マルチジャンル対応と「個」の活用が生む差別化
ABEMAアナウンサーの特徴として、一人でスポーツ、バラエティ、ニュース、麻雀、ゲーム、アニメなど複数ジャンルを横断することが挙げられている。地上波のアナウンサーが専門ジャンルを持つ傾向があるのに対し、チャンネル数が多いABEMAでは掛け持ちが常態化している。加えて、雑誌や写真集、グッズコラボレーション、恋愛リアリティーショーへの出演といったアナウンス業務の枠にとどまらない活動も推進している。これは、タレントやYouTuberとの境界領域に自社アナウンサーを位置づける戦略であり、プラットフォームのコンテンツ力を人的資産として高める設計である。
育成システムの整備と「準備」の意味
第二期採用に際して、西澤は育成の仕組みづくりを自らの役割と位置づけている。営業職時代に受けた新人カリキュラムの経験を基盤に、早期デビューで場数を踏ませつつ、社会人としてのスキルやマインドを体系的に学べる枠組みを構想するという。この点は、スタートアップ的な属人依存の初期段階から、持続可能な組織的生産体制へ移行する過渡期にあることを示している。なお、西澤は「努力は必ず報われるとは言いたくない」としながらも、「いつ来るか分からないチャンスのために準備だけは続けていた」と述べており、不確実性の高いキャリアにおける準備の重要性を語っている。