サイバーエージェントは、マネージャー支援を目的とした専任部署「マネージャーエンパワーメント室(ME室)」を人事本部内に新設した。研修提供にとどまらず、現場に入り込み組織課題の解決を共創する伴走型モデルを採用している点が特徴だ。組織の拡大と多様化が加速する日本のAI産業において、現場を預かる中間管理職層の機能不全をどう防ぐかは業界全体の共通課題であり、この取り組みは構造的な先行事例となる可能性がある。
脱・研修型、伴走と共創を掲げる専任組織の新設
ME室は、単なる相談窓口や研修運営組織ではなく、マネージャーや事業責任者に寄り添いながら組織課題の解決を支援することを主眼としている。活動領域は、個人のマネジメントスキル向上を図る個人支援、事業部単位で組織開発を進める組織支援、全社横断の仕組みづくりを担う全社支援の3層に分かれる。立ち上げから約3カ月間で約100名のマネージャーと1on1を実施し、個人の悩みだけでは解決できない構造的な課題が浮き彫りになったことで、現在は組織そのものに入り込む支援に比重を移している。このシフトは、AIをはじめとする急速に変化する技術領域で事業を率いる管理職の孤立と負荷集中に対処するための現実的な解として位置づけられる。
管理職を孤立させる構造とコンシェルジュ機能の必要性
サイバーエージェントの事業はインターネット広告からAI事業、メディア「ABEMA」の運営まで多岐にわたる。個々のマネージャーは、事業成果への責任とメンバーの成長支援という二重のプレッシャーに直面している。背景には、プレイヤーとして成果を上げた人材がそのまま管理職に登用される組織文化があり、「人を育てるとはどういうことか」という根本的な問いに対する支援が不足していたという問題意識があった。同社は、社外メンターや同期との壁打ち環境を持たない管理職の孤立が、意思決定の質低下や離職につながるリスクを認識し、一人ひとりに寄り添うコンシェルジュ機能としてME室を設計した。これは、高い専門性を持つAI人材を束ねるマネージャーこそ、技術的な判断と人間的なマネジメントの間で葛藤しやすいという構造的な現実への対応でもある。
組織文脈に合わせたMVV再策定と意味付けの再構築
ME室が手がけた具体的な事例として、子会社のCASMとの組織開発プロジェクトがある。設立6年目で組織拡大フェーズに入った同社では、仕事の意義が広告売上や数値達成に偏りがちで、さらなる事業領域拡大を見据えるには視点の転換が必要だった。これに対し、個人のやりたいこと(WILL)と組織の未来を接続するワークショップを実施し、経営陣と現場マネージャーを交えたMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の再策定に着手している。AI産業では、短期的な業績達成圧力がチームの長期的な研究開発意欲を損なう構造的課題が存在する。仕事への意味付けを組織全体で再設計するこの手法は、技術者のエンゲージメント維持と離職防止に直結する施策として注目に値する。
マネジメントの資産化が競争優位を左右する時代へ
室長の若林真悟氏は、マネジメントそのものを組織の資産として蓄積し、競争優位に変えることを究極の目標に掲げている。AI技術の進歩が速いほど、個々の事業判断の質を支えるマネジメント層の成熟度が成果を分ける構図は強まる。同社の取り組みは、日本企業が得意としてきたOJTや暗黙知依存の管理職育成を脱却し、組織的かつ再現可能な仕組みとしてマネジメント支援を体系化しようとする動きと読める。現時点でME室の活動が定量成果としてどこまで事業指標に結びついているかは明らかにされていないが、表情や発言の前向きな変化といった定性的な手応えを足がかりに、今後の検証が進められる見通しだ。生成AIなど新技術が組織に急速に浸透するなかで、変化を吸収しチームを機能させる管理職層への投資は、見過ごせない経営課題となっている。