デジタル庁は、政府職員向けの生成AI環境「ガバメントAI 源内」を2026年度(令和8年度)に全府省庁へ実証展開する方針を明らかにした。同庁デジタル審議官の冨安泰一郎は、源内を自らの「相棒」と表現し、幹部による先導的活用が業務の質と効率を変えると述べている。

幹部が実践する生成AIとの協働、講演原稿作成での具体的手順

冨安審議官はアジア各国政府関係者向けの基調講演の準備において、源内を活用したプロセスを公開した。チャット機能でテーマや対象者を入力し、複数の構成案を生成させる。そこから内容の深掘りを繰り返し、最終的な原稿素材を得た。翻訳段階では「日本人がよく使う英語」を指定するなど、公的機関の利用者ならではの条件設定を加えた。冨安は事前の内容変更にもAIを使ってリカバリーし、部下の負担を増やさず新規業務を完遂したとする。ここから見えるのは、幹部が自らAIと対話し成果物を作り上げることで、組織全体の利用を促すモデルである。

行政事務の三領域で進む実装、問い合わせ削減と引継ぎ効率化

源内上では個別業務に特化したAIアプリの提供が始まった。旅費等内部管理業務共通システムSEABISの操作マニュアルを学習させたアプリでは、デジタル庁内の調査で担当課への問い合わせが約1割減少し、初級者へのレクチャー時間も約3割短縮した。また数年周期の異動に伴う引継ぎ資料の作成では、業務メモや過去資料を構造化し、後任が自ら質問できる環境を構築できる。政策立案に関しては、若手公務員発案の法制度調査アプリLawsyがハッカソンで最優秀賞を獲得し、根拠法令の調査を支援する機能が行政実務のペインポイント緩和に寄与している。

AI基本計画と全省庁展開の意味、業務フロー再構築への布石

2024年末に閣議決定されたAI基本計画では「隗より始めよ」として政府職員の先導的利用を規定した。これに沿って源内の全府省庁展開が進められる。機密性2情報まで取り扱えるセキュリティを備え、各府省庁が自らのルールに基づいて利用範囲を判断する枠組みである。単なる補助ツールの導入ではなく、マニュアル検索やQ&A対応といった局所的な業務フローをAI起点で再設計する動きと位置づけられる。行政の業務効率化を目的とするシステム開発や運用保守を手がけるITベンダーにとっては、AIアプリの追加開発や継続的な学習データ整備という新たな調達領域が生まれる可能性がある。

国産LLM試験利用とAIエージェント導入検討、基盤レイヤーにも波及

将来的な方向性として、AIアプリの拡充に加え、AIエージェントの利用環境導入と国産LLM(大規模言語モデル)の試験的利用が示された。これは単一のチャット対話型支援から、複数業務を自律的に連携させるエージェント型への進化を示唆する。国産LLMの試験利用は、政府のAI基盤が海外製モデルへの依存を段階的に見直し、安全保障やデータ主権の観点から国内モデル開発事業者との接点を増やす転換点となりうる。省庁の調達フローやデータ管理要件に適合したクラウド基盤やLLM提供事業者にとっては、実証段階から参入機会を探る局面に入る。