デジタル庁は2026年7月28日、少子高齢化とAIの急速な性能向上に対応する「国家公務員バリューアッププロジェクト」を発表した。国家公務員の人材確保や育成方針を抜本的に見直すもので、AI時代の行政のあり方を定義する検討会の新設や中途採用の強化が盛り込まれている。
AI時代の行政人材を再定義する4つの柱
松本デジタル大臣が発表したこのプロジェクトは、「人材のための共通基盤の確立」「人材の確保」「働きがいの向上」「多様な人材の活躍」という4つの柱から構成される。第1の柱では、AI時代の国家公務員に求められる能力や役割、人材育成やマネジメントのあり方を検討する新たな検討会を立ち上げ、2027年1月を目途に取りまとめを行う。松本大臣は会見で「AI時代の国家公務員の仕事のあり方がどのように変わっていくか、明確に議論していただきたい」と述べ、特に行政組織におけるAIを活用した意思決定のプロセスについても検討対象となることを示唆した。
中途採用強化が示す行政の民間人材需要
「人材の確保」では、大学1・2年生や高校生への仕事の発信に加え、中途採用に特に重点を置く方針が明示された。松本大臣は「中途採用をやっているのだということを認知してもらわなければいけない」と述べ、試験のあり方や採用プロセス自体の見直しにも言及した。これは、AI導入が進む行政現場において、既存の行政知識だけでなく、AIリテラシーやデータ分析、プロジェクトマネジメントといった民間で培われた専門スキルを持つ人材が早急に必要とされていることを示している。AIを活用した行政サービスの開発・運用を担う人材の流動性が今後高まる可能性がある。
行政手続きのデジタル基盤が加速するマイナアプリ刷新
同日の会見では、行政サービスと民間サービスを繋ぐデジタル基盤に関する発表もあった。現行の「マイナポータルアプリ」と「デジタル認証アプリ」を統合した新「マイナアプリ」が2026年8月25日にリリースされる。また、マイナポータルのAPIを利用した精神障害者向け鉄道運賃割引乗車券のオンライン購入が2026年7月31日から開始される。自治体が保有する手帳情報がマイナンバー連携の対象となったことで、窓口に行かずに民間サービス上で本人確認と割引適用を完結できるようになった。公的個人認証を活用した官民サービス連携の具体的事例が積み上がりつつある。
行政のAI調達とビジネスモデルへの影響
今回の人材改革は、行政のデジタルトランスフォーメーションが単なるシステム刷新から、組織と人材の変革へとフェーズが移行したことを示す。AIを活用した政策立案や行政手続きの自動化に取り組む企業にとって、発注者側である行政の人材変革は調達要件やプロジェクト推進の在り方を変える要因となる。松本大臣は「AIを使った作業はどんなものかということに関わってくる」とも述べており、業務プロセス再設計(BPR)とAI導入をセットで提案できる事業者への需要増加が予想される。一方、短時間勤務拡大などの制度設計については令和12年までの結論を目指すとしており、即時の制度変更より中長期の変革を見据えた計画である点は留意が必要だ。
出入国在留管理庁の人員増と行政リソース配分の行方
会見では、出入国在留管理庁に226人を緊急増員する行政機関職員定員令の改正も発表された。AI時代の行政リソース配分において、定型的な在留管理業務の効率化をAIで進めつつ、最終的な判断や施策立案に必要な人員を確保するという考え方が背景にあるとみられる。公的機関におけるAI導入は、単純な人員削減ではなく、業務の高度化とセットで議論される傾向が鮮明になっている。