ソフトバンク孫氏が仏で巨大AIデータセンター計画協議

(2025-05-26 業界インサイダー)

ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が、フランスに大規模なAI向けデータセンターを建設する構想を進めていることが明らかになった。複数の関係者によると、数週間以内にもエマニュエル・マクロン大統領と共同で計画を発表する方向で調整が続いている。米国に集中するAIインフラの覇権争いに、日本発のグローバル企業が欧州から挑む動きとして注目される。

巨額投資で欧州AI基盤を刷新

今回の計画は、ソフトバンクグループが単独またはパートナー企業と連携し、フランス国内に次世代AI処理に対応した複数のデータセンターを新設するものだ。関係筋が匿名を条件に明かしたところでは、総投資額は数十億ドル規模に達する可能性がある。

孫氏はかねてより「AIこそが人類最大の発明になる」と公言し、半導体設計大手Arm(アーム)を傘下に持つ強みを生かした垂直統合戦略を描いてきた。今回のフランス構想が実現すれば、Armの省電力プロセッサ技術を核に、NVIDIA(エヌビディア)依存からの脱却を図る独自のAI学習・推論基盤を欧州に築くことになる。

フランス側にとってこの誘致は、米国のハイテク大手にデータを握られる「デジタル主権」の危機を和らげる切り札となる。マクロン政権は2024年にAI国家戦略を掲げ、2030年までに10億ユーロ超の官民投資を呼び込む目標を設定している。今回の計画が実現すれば、その目標を一気に引き上げる起爆剤になると期待されている。

関係者によると、孫氏はすでに複数回にわたってエリゼ宮を訪れ、マクロン大統領やブリュノ・ルメール財務相らと秘密裏に協議を重ねてきた。最終的な立地は北部オー=ド=フランス地域圏やマルセイユ近郊が候補に挙がっている。

Arm技術がもたらす電力効率革命

この計画の技術的中核となるのが、ソフトバンクが90%超の株式を保有するArmのアーキテクチャだ。現在のAIデータセンター市場は、NVIDIAのGPUが事実上の標準となっている。しかし、GPUは消費電力の大きさが課題で、大規模な導入は電力網への負荷と二酸化炭素排出量の増大を招く。

Armの設計思想は「性能対電力比の最大化」にあり、すでにAmazon Web ServicesやGoogle Cloudが自社開発するAI向けプロセッサ「Graviton」「Axion」などに採用されている。孫氏は2024年のソフトバンクワールドで「2030年までにAIの消費電力は核融合発電が必要なレベルに達する」と警鐘を鳴らし、Armの超低消費電力技術でデータセンターのエネルギー効率を劇的に改善する構想を披露していた。

今回のフランス計画では、このArmベースの独自AIチップを大規模に実装し、従来比で消費電力を最大40%削減するデータセンターを目指すとみられる。フランスは原子力発電比率が70%を超え、低炭素で安定した電力を供給できる強みを持つ。この条件が、孫氏の電力戦略と合致した。

欧州AI規制と米中対立の狭間で

欧州連合は2024年8月に世界初の包括的AI規制法を施行し、リスクレベルに応じた厳格なルールを運用し始めている。米国のビッグテック各社はこの規制に慎重姿勢を示し、欧州市場向けAIサービスの提供を見送る事例も出てきた。

その空白地帯に、ソフトバンクが「欧州ルールに適合したAIインフラ」を提供する意義は大きい。孫氏はマクロン大統領との会談で、データの域内保管や透明性確保、アルゴリズム監査への対応を約束しているという。欧州企業や政府機関にとって、米国法の域外適用リスクを回避しつつ、最新のAI技術を利用できる選択肢が生まれることになる。

一方、米中のAI覇権競争が激化する中、フランスは「第三極」としての地位確立を狙っている。2025年5月にパリで開催された国際AIサミットでは、マクロン氏が「欧州はAIのルールメーカーにならなければならない」と宣言した。ソフトバンクの進出は、この構想に具体的なインフラを提供するものだ。

日本のAI戦略にも波及か

この仏データセンター計画は、日本のAI産業政策にも少なからぬ影響を与える可能性がある。経産省の試算では、国内のAI向けデータセンター整備に2027年度までに5兆円超の民間投資が見込まれている。しかし、用地不足や電力制約から、大規模拠点の建設は当初計画より遅れ気味だ。

ソフトバンクがフランスで成否を実証できれば、その省電力アーキテクチャは日本のデータセンター再構築にも適用可能となる。特に、東京や大阪の既存施設をArmベースで刷新する「グリーンAIデータセンター」構想は、電力需給の逼迫緩和と産業競争力強化の両立を求める日本政府の方針とも合致する。

さらに、ソフトバンクは米国でも2024年にオハイオ州でAIデータセンターへの大規模投資を発表している。日米欧の三極にまたがるAIインフラ網は、孫氏が創業時から掲げてきた「情報革命で人々を幸せに」というビジョンを、生成AI時代に体現する布石となる。マクロン大統領との共同発表の場が、2025年6月にパリで開催予定のテクノロジー見本市「Viva Technology」になる可能性も関係者の間で取り沙汰されている。