半導体記憶装置ETFが6500億円到達の最速記録マイクロン好調が追い風に

半導体記憶装置であるDRAMに特化した上場投資信託(ETF)が、史上最速で純資産総額65億ドル(約6500億円)を突破した。半導体大手マイクロン・テクノロジーの決算発表を契機とした銘柄急騰が、個人投資家や機関投資家の資金を大量に呼び込んだ格好だ。

DRAM専業ETFが資金吸収速度で新記録

ブルームバーグの集計データによると、DRAM関連企業に集中投資するETFの運用資産残高は足元で65億ドルに達し、過去に組成された全テーマ型ETFと比較して最も短期間での大台到達となった。オプション取引やレバレッジ型を除く現物資産ベースのETFでこの速度を実現したのは異例である。

同ETFは上位組入銘柄としてマイクロン、サムスン電子、SKハイニックスといったDRAM大手3社を中核に据える。年初から資金流入が続いていたが、3月にマイクロンが発表した四半期決算で市場予想を大幅に上回る売上高見通しを示した直後から、流入ペースが一気に加速した。アナリストの推計では、決算発表からわずか5営業日で10億ドル超の新規資金が流入したとみられている。

生成AI特需が価格を押し上げ

マイクロンが示した強気見通しの背景にあるのは、生成AI(人工知能)向け高帯域幅メモリー(HBM)の爆発的需要だ。HBMは画像処理半導体(GPU)と組み合わせて大規模言語モデルの学習・推論に使われ、DRAMメーカー各社の最重要製品に位置づけられている。

市場調査会社トレンドフォースの試算では、2024年のHBM市場は前年比で約3倍に拡大し、DRAM全体の売上高に占める比率は15%を超える見通しである。マイクロンは2024年末時点で2025年生産分のHBM在庫がすでに完売したと表明しており、需給逼迫は少なくとも2025年半ばまで続くとの見方が支配的だ。

需給逼迫は汎用DRAMの価格にも波及している。主要サーバー向けDDR5規格のスポット価格は、2023年末比で約40%上昇した。データセンター事業者によるAIサーバー増設ラッシュが、HBMだけでなく通常DRAMの需要も同時に押し上げる構図である。

過去の半導体ETFサイクルとの違い

今回のETF急成長は、コロナ禍の2020年から2021年にかけて起きた半導体ETFブームとは質的に異なる。当時はリモートワーク特需によるパソコン・ゲーム機向け需要が中心で、供給不足が解消された2022年には急速に資金が流出した。

今回はAI投資がけん引役であり、設備投資回収に3〜5年を要するHBM製造ラインの特性上、短期間での供給過剰に陥りにくい構造になっている。半導体製造装置メーカーのアプライド・マテリアルズ幹部も投資家説明会で「HBM向け装置の受注残は過去最高を更新し続けている」と述べており、関連ETFへの資金流入は当分持続する可能性がある。

日本市場への影響と東京エレクトロンの位置

DRAM専業ETFの急拡大は、日本市場にも波及し始めている。東京エレクトロンが手がけるHBM向けの成膜装置とエッチング装置は、サムスン電子とSKハイニックスの増産投資計画において不可欠な調達品だ。東京エレクトロンの2024年3月期決算説明資料によれば、HBM関連装置の売上高は前期比2倍以上に達し、2025年3月期も同水準の伸びを見込んでいる。

東証プライム市場の半導体関連株は、米DRAM ETFの純資産増加と連動する傾向が統計的に確認されており、国内個人投資家の物色意欲も強い。もっとも、米中貿易摩擦の激化がDRAM輸出規制の拡大を招けば、ETFそのものの基準価額に下方圧力がかかるリスクは残る。

ETF急膨張が投機的過熱を呼ぶリスク

65億ドルへの急到達は明るい話題ばかりではない。短期間で資産規模が膨らんだETFは、市場全体のリスク選好が反転した際に解約が殺到しやすく、基準価額が純資産価値を大幅に下回る「価格の歪み」を引き起こしやすい。実際、2023年に急成長した半導体3倍レバレッジETFは、その後の利益確定売りで1日あたり20%超の下落を記録した事例がある。

バンク・オブ・アメリカのストラテジストはリポートで「DRAM ETFへの資金流入速度は、2021年の暗号資産関連ETFの立ち上がりを想起させる」と警鐘を鳴らした。HBM需要そのものは構造的な長期トレンドとみられるが、ETFの過熱が現物市場へ過剰な資金を供給し、メモリー需給バランスの読みにくさを増幅させる副作用には警戒が必要だ。

マイクロン経営陣の慎重姿勢と対照的な市場

マイクロン経営陣が決算発表で示した設備投資計画は、市場の高揚感に比べて抑制気味である。サンジェイ・メロートラ最高経営責任者(CEO)は「資本効率を重視し、需要を上回る生産能力の急拡大は行わない」と明言した。メモリー業界は過去20年にわたって過剰投資と価格暴落を繰り返してきた経緯があり、経営陣の慎重姿勢はその経験に根ざしている。

一方でETF市場は同社株に強気の一方向な賭けを集めており、企業の実態と金融商品の価格形成の間に微妙な乖離が生じている。DRAM ETFが次の節目となる100億ドルをいつ突破するかというタイミングよりも、現物市場と金融商品市場のねじれがいつ解消に向かうかが、より本質的な投資判断の焦点になる。