マイクロソフト、ケニア拠点が暗礁 政治対立で事業凍結の理由

米マイクロソフトが中東・アフリカ戦略の中核と位置づけるケニアのデータセンター計画が、政治的な行き詰まりを見せている。同社とアラブ首長国連邦のAI企業G42、ケニア政府の三者間で利害調整が難航し、稼働時期は不透明なままだ。

共同事業の枠組みに何が起きているか

関係者によると、マイクロソフトとG42は2024年、ケニア国内に大規模データセンターを建設する覚書を現地政府と交わした。G42が現地法人を通じてインフラを整備し、マイクロソフトのクラウド基盤を設置する計画で、初期投資額は10億ドル規模と見込まれていた。

ところがプロジェクトはここ数カ月、事実上の停止状態にある。原因はケニア政府が求める規制面の優遇措置をめぐり、与党内や議会から異論が噴出したことだ。税制上の特例やデータ主権の取り扱いを警戒する声が強まり、政府内の足並みが乱れた。

G42と米規制当局の影

G42はこれまでも米国政府の厳しい視線を受けてきた。中国企業との技術連携を段階的に縮小するよう米国から要請された経緯があり、今回のケニア案件も米商務省との対話を続けながら進める必要がある。同社の海外展開には米政府の意向が強く反映される構図だ。

関係者によれば、マイクロソフト側はG42との協業をアフリカ全域に広げる青写真を描いていた。ケニア拠点は南アフリカに次ぐアフリカ大陸第2の旗艦データセンターとなるはずだっただけに、停滞の影響は小さくない。

ケニア政権内の亀裂とデータ主権問題

ウィリアム・ルト大統領は就任以来、デジタル経済振興を看板政策に掲げてきた。ところが野党や一部閣僚からは「外国企業への過度な優遇は国益に反する」との批判が上がる。特にデータ主権に関しては、欧州連合のGDPR並みの厳格な個人情報保護を求める議員連盟が勢いを増している。

ケニア情報通信省の高官は「我々は投資を歓迎するが、法の枠組みを曲げることはできない」と述べ、譲歩の余地が限られていることを示唆した。

アフリカ全土に飛び火する遅延リスク

マイクロソフトはアフリカで先行するアマゾン・ウェブ・サービスやグーグルを追う立場にある。AWSはケープタウンにデータセンターを構え、グーグルは2024年にナイロビにクラウドリージョンを開設済みだ。競合がいち早くインフラを整えるなか、マイクロソフトの出遅れ感は否めない。

調査会社Omdiaの推計では、アフリカのパブリッククラウド市場は2027年までに年平均30%超の成長が見込まれる。G42との連携を軸にシェア拡大を狙うマイクロソフトにとって、ケニアの停滞は域内戦略全体を揺るがしかねない。

日本企業に波及するクラウド供給網の不確実性

この遅延は日本市場にとっても対岸の火事ではない。ケニア拠点はアフリカに進出する日本企業のクラウド利用を支える基盤の一つとして期待されていた。商社や物流大手のなかには、東アフリカの取引データを現地で処理する計画を持つ企業が複数あり、インフラの不在はデータ管理コストの増加に直結する。

業界アナリストは「アフリカ案件では政治リスクの評価が不可欠だ」と指摘する。G42、ケニア政府ともに歩み寄りの姿勢は崩していないものの、大統領選を2027年に控えるケニアの政治情勢を考えれば、早期の決着を予測する声は少ない。