英国の企業向けソフトウェア企業OneAdvancedは、Llama 4 MaverickとLlama Guard 4をAmazon SageMaker AI上で自前ホスティングし、データが英国国外に出ないAI基盤を構築した。50を超える専門エージェントとRAGパイプラインを組み合わせ、医療や法務など規制産業の顧客にAI機能を提供する。この事例は、マネージドサービスに依存しないAI導入の実行可能性を示す。
データ主権が要件を変えたモデル選定
OneAdvancedは、英国の厳格なデータ主権要件を満たすため、Llama 4 MaverickとLlama Guard 4を自社のAWSアカウント内で自己ホスティングする道を選んだ。同社は当初Amazon Bedrockでプロトタイプを開発し、2週間のスプリントでチャット補完や法令検索エージェント、Snowflake連携、グラフ生成を実現していた。しかし、規制産業の顧客はデータが英国の法的枠組み内に留まることを求めるため、モデルを自前で運用する判断に至った。この選択は、マネージドサービスの可用性や提供地域に依存しない、企業独自のAI基盤構築の一形態を示している。
50超のエージェントが変える業務フロー
OneAdvancedはStrands Agents SDKを用いて50を超える専門エージェントをAmazon ECS上にデプロイした。各エージェントは固有のシステムプロンプト、ツール設定、入力フォームを持ち、DynamoDBで構成を管理する。文書はS3にアップロードされ、Markdown化、チャンク分割、埋め込み生成を経てpgvectorに格納される。Llama Guard 4がプロンプトの安全性を事前に検証し、有害な入力がメインモデルに到達するのを防ぐ。これにより、医療記録や法的文書を扱う業務でも、AIアシスタントを安全かつ統制された形で組み込める。
クラウドとエンタープライズ導入の分岐点
この事例は、AIモデルの導入経路が大きく二つに分かれつつあることを示唆する。一つはマネージドAPIをそのまま使う方法、もう一つはオープンウェイトモデルを自社インフラでホスティングし、完全な制御権を持つ方法だ。OneAdvancedは後者を選び、p5.48xlargeインスタンス上でLlama 4 MaverickをFP8精度で稼働させることで、性能とコストのバランスを取った。クラウド事業者にとって、GPU容量とモデルホスティングの柔軟性が、規制産業向けの競争力に直結する構造が浮かび上がる。
規制産業のAI導入、日本への示唆
データ居住性や主権要件を重視する顧客は、英国だけでなく日本の医療・金融・公共セクターにも存在する。国内データを国外のAIサービスに送ることへの懸念から、AI導入が進まない日本企業は少なくない。OneAdvancedの構築手法は、パブリッククラウドの自社アカウント内でオープンウェイトモデルをホストし、エージェント層を分離することで、データ主権とAI活用を両立する具体的な実装例となる。今後の日本企業の技術選定に影響を与える可能性がある。
論点:自前運用の利益と負担
自己ホスティングは完全な制御と主権を満たす一方で、モデルのデプロイ、スケーリング、セキュリティパッチ、GPUインフラの維持といった運用負担を組織内に持ち込む。OneAdvancedはISO 42001のAIガバナンス認証を取得しており、自前運用が規制順守の枠組みと結びついている点は注目に値する。マネージドサービスの地域展開が進めば、自前運用とマネージド運用の選択は再度揺れ動く可能性がある。企業はデータ主権の要件だけでなく、運用コストとガバナンス責任の所在を評価軸に加える必要がある。