東京のAI企業Sakana AIが、短期間で4つの製品を相次いでリリースしている。これまで研究開発で知られてきた同社が、なぜこのペースで製品を市場に送り出すのか。プロダクト開発責任者の大村颯太氏へのインタビューから、組織体制の変化、グローバル市場を見据えた日本発の開発体制、人間とAIの協働を巡る構想が明らかになった。

コンサルとスタートアップを経てAIへ

大村氏はデロイト トーマツ コンサルティングでITコンサルタントとしてキャリアを開始し、スーパーマーケットや鉄道会社など生活に近い企業のITシステム刷新に携わった。その後、暗号資産交換業を営むCoincheckに移り、事業責任者としてプロダクトマネジメントからエンジニアリング、カスタマーサポートまで一気通貫の開発を指揮した。この経験から「自らの手でプロダクトを育てる」ことの本質を学び、2025年7月にSakana AIにプロダクトマネージャーとして参画している。

「前傾する産業」でしか見えない景色

大村氏の転職を貫く判断基準は、暗号資産業界に身を置いた際に上司から聞いた「前傾する産業に身を置くことでしか見えない景色がある」という言葉だという。ブロックチェーンが社会の注目を集め、規制論議と大手参入、資金と人材の流入が同時に起きる中で、技術的可能性と社会的受容が交錯する現場の魅力を実感した。2025年にキャリアを見直した際、生成AIこそが最も「前傾している」産業だと判断し、Sakana AIへの参画を決めた。

日本拠点であることの開発上の含意

大村氏が複数のAI企業の中からSakana AIを選んだ決定的な理由の一つは、本社機能が日本にあることだ。海外テクノロジー企業の日本法人では、顧客からの改善要望を本社に上げる調整に時間を要し、販売やマーケティングが業務の中心になりがちだという課題が存在する。これに対しSakana AIは開発の意思決定を日本で完結できるため、顧客フィードバックを製品に直接反映しやすい構造を持つ。日本に拠点を置きながらグローバル市場で競争する上で、この体制を大きな利点と見ている。

4製品連続リリースの組織的背景

大村氏の参画当初、Sakana AIにはResearchチームとAppliedチームが存在していた。プロダクトチームは両チームのメンバーによる議論から次第に形として立ち上がっていったという。研究を得意とする企業が短期間で複数の製品を出すに至った背景には、研究と応用、プロダクトの間にあった境界を再編し、製品化のプロセスを内製化する組織的な意図があったことがうかがえる。製品群の具体的な開発手法や各チームの人員規模については、現時点では明らかにされていない。

今後注目すべき構造的論点

Sakana AIの動きは、研究志向のAI企業が製品レイヤーに進出する際の組織設計と意思決定速度を示す事例となる。大規模言語モデルの研究開発力と、エンドユーザー向け製品の企画・改善力は組織文化や評価指標が異なるため、両立には摩擦が伴うことが一般的だ。同社がこの課題をどのように解決し、ChatやTranslateといった製品を継続的に改善していくかは、国内AI産業の研究開発型企業が市場に直接関与するモデルの実現可能性を占う材料となる。また、日本国内の企業や行政がAI製品を選定する際、日本に開発拠点を持つサプライヤーの存在が調達判断に与える影響についても、今後の論点として位置づけられる。