ピクテが現金比率3割をAI株に振り向けリスク選好に転換
ピクテ・アセット・マネジメントが運用する35億ドル規模のマルチアセットファンドは、現金相当資産の最大30%をアジアと米国の人工知能関連有力銘柄に振り向けた。インフレ鈍化と利上げ終了観測を背景に、守りの姿勢からリスク資産への回帰を鮮明にした格好だ。
現金ポジションを3割削減した背景
同ファンドを率いるシャンミン・ウー氏はブルームバーグの取材に対し、2025年初頭に15%近くまで積み上げていた現金比率を足元で一気に引き下げたことを明らかにした。マクロ経済の不透明感が後退し、米連邦準備理事会の金融政策が転換点を迎えたとの判断が背景にある。
年初の市場ではスタグフレーション懸念や地政学リスクがくすぶり、同ファンドは最大限の防御的ポジションをとっていた。しかしインフレ指標がピークアウトの兆しを示し、米10年債利回りが安定したことで、機動的なリスクテイクに踏み切った。ウー氏はAI分野の収益成長が市場全体をけん引するとみており、待機させていた資金を一気に解放した形だ。
投資先はアジアと米国のAI大手
資金の投入先として選ばれたのは、台湾積体電路製造や韓国サムスン電子などアジアの半導体サプライチェーンを支える企業群である。米国市場ではエヌビディアやマイクロソフトといったAIの中核を担う巨大テクノロジー企業に集中投資した。
ウー氏は生成AI向け半導体の需要が2026年にかけても供給を上回ると分析し、設備投資の拡大が関連企業の業績を押し上げるとの見方を示す。データセンター向け先端ロジック半導体だけでなく、高帯域幅メモリーの受注拡大も投資判断を後押しした。ファンドは特定のテーマ型ETFを経由せず、個別銘柄を厳選して直接組み入れている点が特徴だ。
ディープシークの台頭がもたらす再評価
中国のAIスタートアップ、ディープシークが低コストの大規模言語モデルを発表したことも、運用戦略に影響を与えた。市場では過剰な設備投資への懸念が一時広がったが、ウー氏はむしろAIの普及を加速させる触媒と捉えている。
推論コストの低下はエンタープライズ向けAI導入の敷居を下げ、中長期的に半導体需要を底上げするという読みだ。実際にアリババグループやテンセントホールディングスなど中国プラットフォーマー各社は、自社開発チップと汎用半導体の両面で調達を強化している。ピクテは中国市場の政策リスクを注視しつつも、割安になったセクターの一部で買いを入れたとみられる。
マルチアセット運用のリスク管理手法
現金を大きく引き揚げたとはいえ、同ファンドは無防備に株式比率を高めたわけではない。オプション取引を活用した下値リスクのヘッジを併用し、急な相場変動に備える構造を維持している。
具体的にはS&P500種指数のプットオプションを戦略的に組み入れ、ポートフォリオ全体のボラティリティを抑制する設計をとる。金利上昇局面に備えたインフレ連動債の一部保有も継続しており、単純な強気転換ではない複合的な資産配分である点が運用哲学を物語る。ウー氏は過去にドットコムバブルの崩壊やリーマンショックを運用者として経験しており、楽観と慎重さのバランスには定評がある。
日本市場への波及と投資家の視点
ピクテの資産配分変更は、日本市場にも一定の示唆を与える。同社は日本株についても半導体製造装置や素材セクターを中心にAI関連需要の恩恵を見込んでおり、東京エレクトロンやアドバンテストといった企業への資金流入が加速する可能性がある。
日本銀行の金融政策正常化が国内金利を押し上げる環境下では、輸出企業の為替感応度が投資判断の鍵を握る。ウー氏は円相場が1ドル=140円台で推移する限り、日本企業の競争力は損なわれないとの見解を示した。世界の機関投資家がAIテーマでリスク許容度を高める動きは、東証のグロース市場よりもプライム市場の大型ハイテク株に資金を集中させる傾向を強めている。グローバルマクロとテクノロジーセクター分析を組み合わせたピクテの手法は、日本の機関投資家にとってもポートフォリオ再構築の参考事例となりつつある。