ブレインパッドグループは、三井不動産が管理するオフィスビルにおいて、現場作業の動画からAIエージェントが自動でマニュアルを生成する共同検証を実施した。人手不足と技能継承が構造課題となるビルメンテナンス業界で、熟練者の「暗黙知」を誰でも再現できる「形式知」へ変換する取り組みであり、フィジカル領域へのAI実装としても注目される。

動画を撮るだけでマニュアルが生成される仕組み

本検証には、BrainPad AAAが開発した現場変革AIエージェント「COROKO(コロコ)」が用いられた。施設内で実施された空調機点検や配管補修などの作業を撮影し、その動画ファイルをCOROKOに入力することで、作業ステップや注意点を含むマニュアル文章が自動生成される。現場担当者が行ったのは、主に動画撮影と生成されたマニュアルの確認・修正である。検証期間は2026年1月から2月で、東京都中央区の日本橋一丁目三井ビルディングにおいて5名の設備員が参加した。COROKOは、言語化が難しい所作についても重要度を判断し、マニュアルに反映する自律的な解釈機能を持つ点が特徴とされている。

作成時間50%削減とAI生成カバレッジ率86%の示す意味

検証結果として、従来の手作業によるマニュアル作成と比較して、作業全体の所要時間を約50%削減できる見込みが得られた。さらに、現場担当者が修正した最終版マニュアルにおいて、AIが自動生成した部分が全体に占める割合(カバレッジ率)は最大約86%に達した。この数値は、AIによる下書き生成が実務レベルで十分に機能し、人間の修正負荷が限定的であることを示す。同時に、約14%の修正が発生した事実は、安全や品質に直結する現場判断の最終責任が依然として人にあるという現実を反映している。完全自動化ではなく、人間とAIの協働による技能継承プロセスの現実的な着地点を示すデータといえる。

フィジカルAI領域への転換と不動産管理モデルへの波及

ブレインパッド代表取締役社長CEOの関口朋宏氏は、本検証を「フィジカルAIという新たな領域への大きな一歩」と位置づけている。同社は従来、データ分析やSaaSを中心に企業のデジタル活用を支援してきたが、本件は物理的な現場作業をAIが解釈し、形式知化する点で事業領域の拡張を示す。一方、三井不動産ビルディング本部の上井公介氏は、建物ごとに異なる設備や運用手順の標準化が、現場の属人性を排除し、複数物件の一括管理を進める「エリア一体管理」の基盤となるとの見解を示している。今回の検証結果を踏まえ、3社はより複雑な作業への対象拡大と本格導入を検討する段階に入る。

労働人口減少が突きつける技能継承の構造課題

ビルメンテナンス業界は、生産年齢人口の減少に伴う慢性的な人手不足に直面しており、熟練者の退職による技能断絶が事業継続上のリスクとして認識されている。複雑な設備手順の多くは、文書化されない暗黙知として個人の経験に依存してきた。今回の検証は、この構造課題そのものに対する技術的応答であり、単なる作業効率化ではない。動画を通じて熟練者の判断や所作を形式知に変換する仕組みが普及すれば、新人育成の短期化や、拠点を越えたノウハウ共有の実現可能性が高まる。日本国内の老朽化するオフィスストックの維持管理コスト抑制にも寄与しうる取り組みである。