Google、BroadcomとのAIチップ協業を拡大 TikTokに続く大型クラウド取引
Googleは半導体設計大手Broadcomとの戦略的パートナーシップを大幅に拡大する。生成AI(人工知能)向けの自社開発チップ「TPU」の生産能力を2027年までに現行の3倍に引き上げる計画で、その設計・製造の主要パートナーにBroadcomを据えた。複数の関係者への取材で明らかになった。年間契約規模は数十億ドルに達する見通しだ。
■ クラウド覇権を左右する「TPU」増産計画 今回の協業拡大の中核は、Google Cloudが独占販売するAIアクセラレーター「TPU v5」および次世代チップの供給網強化にある。BroadcomはTPUの回路設計や製造工程の最適化、パッケージング技術でGoogleを長年支えてきたキーパーソンだ。新たな複数年契約では、BroadcomがTSMC(台湾積体電路製造)との交渉窓口を一本化し、先端パッケージの生産枠を実質的にGoogle専用として確保する仕組みを導入する。Googleはこれまで年率2倍ペースでTPUの計算能力を増強してきたが、2025年以降は3年で3倍という前例のない拡張に踏み切る。これはChatGPT対抗の「Gemini」を皮切りに、YouTubeやWorkspace全般にAI機能を埋め込む膨大な推論需要を見据えた布石だ。
■ なぜ今、自社チップの増産が不可避なのか 世界のクラウド事業者はNVIDIAのGPU「H100」調達に血眼になっている。しかしGoogle幹部は社内向け説明で「外部GPU依存を続ければ赤字が加速する」と警鐘を鳴らしてきた。NVIDIAのデータセンター向けGPUの粗利益率は直近四半期で70%を優に超え、クラウド各社のAIサービス損益分岐点を圧迫する。これに対しTPU v5は生成AIの推論処理をワット当たり2倍の電力効率で実行でき、チップコストを内部試算で最大40%抑制できる。Amazonが「Trainium2」、Microsoftが「Maia」を投入するなか、第4世代AIチップ戦争は設計力と専用工場の確保が勝敗を分けるフェーズに突入した。
■ Broadcomの「AI半導体黒子戦略」が示す業界再編 BroadcomはAIチップ市場で異色の存在感を放つ。NVIDIAのように完成品を売るのではなく、GoogleやMetaのような巨大IT企業の内製チップ設計を請け負い、製造管理とIP(設計資産)ライセンスで収益を上げるモデルだ。Hock Tan CEOは直近の決算説明会で「AI向け半導体収入が前期比2倍に拡大し、2025年度には売上構成比で20%に迫る」と述べた。Googleとの契約拡大により、BroadcomはAppleの無線チップに並ぶ第2の収益柱を固める。この動きは「自社開発チップを持つメガテック対NVIDIA」という構図をさらに先鋭化させる。
■ 日本市場とサプライチェーンへの波及 協業拡大は日本の半導体関連株にも波及する。Broadcomの主戦場であるネットワークチップと光トランシーバー需要が急増するためだ。AIデータセンターではGPUやTPUの計算性能を引き出すスイッチと光配線が膨大に必要となる。NECや古河電工など光部品サプライヤーの大口需要家であるBroadcomの増産は、日本発の調達拡大につながる。加えてKDDIがGoogle Cloudと組む国内AI基盤の整備計画にも影響する。TPUの供給安定性が高まれば、NVIDIA一辺倒だった国産AIサービスに価格競争が生まれ導入ハードルが下がる。
■ 投資家と企業戦略への示唆 Googleを擁するAlphabetの設備投資は2024年度に500億ドルを突破する見通しだ。その約8割がサーバーやAIチップなど技術インフラに充てられる。Broadcomとの契約拡大はNVIDIAへの支払いを構造的に減らし、自社クラウドの限界利益を改善させる重要な一手だ。Broadcom側にとっても単なる受託を超え、「AI時代のインテル」的ポジションを狙う。UBSの半導体アナリストは「Broadcomが関与するAIチップ市場は年率50%成長が2030年まで続く」と試算する。両社の命運は、生成AIブームが投資家の期待に応え続けるかという一点に集約される。市場の懐疑論が強まった場合、巨額のチップ在庫を抱えるリスクはGoogleも免れ得ない。2025年後半にはTPU v6の設計凍結が予定されており、次世代チップの性能指標が具体的な競争力を占う試金石となる。