宇宙データセンター構想のCowboy Spaceが275億円調達

ロケット不足が最大の壁に

米国のスタートアップ、Cowboy Space Corporationは軌道上にデータセンターを配備する構想の実現に向け、2億7500万ドル(約275億円)の資金調達を完了した。同社は人工衛星の大量投入を視野に入れるが、まずは打ち上げ手段となるロケットの自社開発が急務となっている。

今回の大型調達は、データ処理の物理的限界を宇宙に求めようとする異例のプロジェクトに投じられたものである。地上のデータセンターは用地や電力、冷却水の制約が強まる一方で、宇宙空間での無制限な太陽光発電と真空による自然冷却は理想的な演算環境を提供する。Cowboy Spaceの創業者兼CEOであるマーカス・レイノルズ氏は調達発表に際し、宇宙空間での演算能力こそが次の10年の情報インフラ競争を決するとの見解を示した。

地球の限界を超える演算基盤を求めて

現在、世界のデータセンター産業は深刻な拡張制約に直面している。調査会社Structure Researchの年次レポートによると、北米の主要データセンターハブでは2023年時点で電力供給の待機期間が平均18カ月に達し、アイルランドやシンガポールなどでは新規接続の一時凍結が相次ぐ。演算需要を牽引する生成AIの大規模言語モデルは、1回の学習で数千メガワット時の電力を消費し、冷却のために数百万リットルの水を蒸発させる。

Cowboy Spaceは高度約1200キロメートルの低軌道に、1基あたり50キロワット級の演算モジュールを数千基配置する計画だ。衛星間光通信でメッシュネットワークを形成し、理論上は地球上のどの地点からでも10ミリ秒以内のレイテンシでアクセスできる設計としている。同社CTOのサラ・チェン博士は技術ブリーフィングで、モジュールが落雷や洪水といった地上の災害リスクから完全に隔離される点も金融機関や政府系クラウドに訴求すると強調した。

ロケット不足が計画の最大の隘路に

構想の実現を阻む最大の障壁は、打ち上げ輸送力の絶対的不足である。SpaceXのFalcon9が年間100回近い打ち上げを達成しているとはいえ、Cowboy Spaceが必要とする数千基のモジュールを軌道投入するには全く足りない。1基あたりの質量は約800キログラムが想定され、初年度の配備目標である400基だけでも合計320トンの輸送が必要となる。これは現在のFalcon9の年間打ち上げ能力の一部を占有する規模だ。

業界コンサルタントのEurospaceの分析では、2030年までに全世界で計画されているメガコンステレーションの累計打ち上げ需要は最大1万2000トンに達し、既存の打ち上げ事業者の能力を3倍以上超過すると試算されている。レイノルズCEOは投資家向け説明で「市場のロケット供給を待つだけでは当社の計画は5年遅れる」と明言し、自社開発の必要性を強調した。

垂直統合で打ち上げコスト7割削減を狙う

調達資金の大半は「ブルーホーク」と命名された二段式再使用ロケットの開発に割り当てられる。1段目はメタンエンジン7基を搭載し、打ち上げ後は海上プラットフォームへの垂直着陸を想定。低軌道への打ち上げ能力は再利用時で8トン、使い切りモードで14トンを目標とする。2026年の初打ち上げを計画し、量産段階では1回あたりの打ち上げコストを2800万ドルまで低減できるとの社内試算がある。

同社が垂直統合を選んだ背景には、外部ロケットに依存した場合の単価上昇リスクがある。Falcon9の打ち上げ価格は需要逼迫を受けて2020年の6200万ドルから直近では9800万ドルへと約58%上昇しており、AmazonのProject Kuiperも自社の衛星打ち上げにArianeやBlue Originなど複数事業者のロケットを高額で予約している状況だ。Cowboy Spaceは打ち上げ単価をFalcon9現行価格の3分の1未満に抑え、軌道上データセンターの経済性を確保する方針である。

日本企業へのサプライチェーン波及

この動きは日本のロケット部品サプライヤーにも商機をもたらす可能性がある。ブルーホークの1段目に使われるアルミニウム合金製のタンク構造材は、これまでもH3ロケット向けに供給実績を持つ日本の金属加工メーカーが試作を受注していることが関係者への取材で判明した。また軌道上の演算モジュールが発する膨大な熱を宇宙空間に放出するヒートパイプ技術では、日本の宇宙機関JAXAとの要素技術ライセンス契約が最終段階にあるとされる。

軌道上データセンターの国際規制に不透明感

技術面以外では、宇宙空間に常設演算基盤を置くことへの国際法上の整理が追いついていない。現行の宇宙条約は国家の宇宙活動を想定しており、数千基規模の民間衛星が他国の上空でデータ処理を継続的に行うシナリオは想定外だ。欧州宇宙政策研究所は先月公表したワーキングペーパーで「軌道上の商用演算プラットフォームは、データ主権と国家管轄権の境界を曖昧にする」と警鐘を鳴らした。Cowboy SpaceはFCCやITUとの協議を開始しているが、軌道スロットや周波数割り当てに加え、処理データの越境規制が新たな論点として浮上している。

地球外インフラの覇権は数年で決まる

Cowboy Spaceに先行する動きも見え始めた。Microsoftは2023年にAzure Spaceの一環として軌道上エッジサーバーの実証をHPEと共同で行い、NTTはスカパーJSATと組んだ宇宙データセンターの概念設計を進めている。今回の2億7500万ドル調達が示すのは、宇宙空間を単なる通信の中継点ではなく、主力演算基盤の設置場所へと転換しようとする野心的な潮流である。ロケット開発の成否が、地球外インフラをめぐる主導権争いの最初の分水嶺となる。