バイトダンスがAI投資25%増額の1600億元確保 半導体高騰でも拡大鮮明
中国の動画投稿アプリTikTokを運営するバイトダンスが、2025年の人工知能インフラ向け投資を前年比25%増の2000億元(約4兆2000億円)に引き上げたと、香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが3月29日に報じた。メモリー半導体の価格が上昇する逆風下でも、同社が生成AI分野での主導権獲得を最優先課題と位置づけていることが浮き彫りになった。
投資規模が示す2つの市場シグナル
2000億元という投資額は、バイトダンスがAIインフラに振り向ける年間予算としては過去最大となる。この数字にはデータセンターの新設費用、AI処理に特化したGPUの大量調達コスト、そして光通信機器や冷却システムといった周辺設備への支出が含まれる。関係筋によれば、同社は当初1600億元程度を想定していたが、年明け以降のAI需要急拡大を受けて上方修正を決断した。
投資拡大の背景には、メモリーチップ価格の高騰という構造的要因がある。AIサーバーには大容量のHBMが不可欠だが、SKハイニックスやサムスン電子が供給の大半を握るHBM3E製品は、需要超過で価格が2024年から3割以上跳ね上がっている。バイトダンスはこうしたコスト増を織り込みながらも、投資額をむしろ押し上げる戦略を選択した。アナリストの間では、同社が自社開発の大規模言語モデルDoubaoの推論コスト低減にメドをつけたため、余剰資金を学習基盤の増強に振り向ける余裕が生まれたとの見方が出ている。
半導体調達を左右する米中対立の構図
バイトダンスのAI投資拡大は、米国による対中半導体輸出規制の綱引きを一段と激しくさせる可能性がある。同社は現在、NVIDIAのH20チップを主力にAIサーバーを構築しているが、H20は規制回避のために性能を意図的に落としたダウングレード版だ。バイトダンスは2024年に中国市場で流通したH20の約4割を買い占めたとされ、米商務省がH20そのものを禁輸対象に加えるか否かが焦点になっている。
規制が厳格化された場合の代替策として、同社は華為技術(ファーウェイ)のAscendチップの評価を既に始めている。サウスチャイナ・モーニング・ポストの取材に応じたサプライチェーン関係者は「バイトダンスの調達チームは2025年後半を見据え、国内チップと海外チップの二正面作戦を敷いている」と証言する。ただし、ファーウェイのAscend 910BはNVIDIA製品に比べてソフトウェア開発環境の成熟度で劣り、大規模クラスターでの歩留まりにも課題を残す。バイトダンスが掲げる「1600億元超」の巨額投資が実際に完全執行されるかは、米中両政府の政策動向に大きく依存している。
国内競合との投資競争と収益化の難題
中国AI市場では、百度やアリババ、テンセントといった老舗テック企業に加え、新興のDeepSeekが低価格モデルで市場を席巻しつつある。DeepSeekは2024年末に公開した大規模言語モデルのAPI利用料を、競合の20分の1以下に設定して話題を呼んだ。バイトダンスの2000億元投資は、これらライバルとの差別化に向けた集中砲火と位置づけられる。
同社はTikTokと中国版の抖音で蓄積した膨大な動画データを学習に活用できる点が最大の強みだ。すでにAI動画生成ツールのJimengは中国国内で月間8000万ユーザーを抱え、企業向けAPIの提供も始まっている。しかし、巨額投資に見合う収益を確保できるかは未知数である。市場調査会社センサータワーの推計では、2024年の生成AI関連アプリの平均課金単価は前年比12%下落しており、無料モデルを前提としたユーザー囲い込み競争が激化している。バイトダンスはAI投資の回収シナリオを広告収入の増加に置いているが、マクロ経済の減速で中国のデジタル広告市場の成長率は2025年に5%を下回ると予測するアナリストもいる。
日本企業が直面するクラウドコスト上昇圧力
バイトダンスのAI投資加速は、日本市場にも波及経路を持つ。同社が展開する法人向けサービス「BytePlus」は、動画レコメンデーションエンジンや生成AIモデルをパッケージ化し、日本の小売業やメディア企業に提供している。AIインフラ投資の拡大はサービス品質の向上につながる半面、調達コストの増加分がクラウド利用料に転嫁されるリスクがある。
加えて、NVIDIAチップの調達競争が激化すれば、日本国内のデータセンター事業者やAIスタートアップが必要なGPUを確保しにくくなる懸念が現実味を帯びる。すでに日本政府は経済安全保障の観点から、さくらインターネットなど国内事業者へのGPU補助金を積み増しているが、1社で年間2000億元を投じるバイトダンスの購買力はそれをはるかに凌駕する。日本のAI産業政策は、中国テック企業の巨額投資が生むグローバルな資源争奪戦を織り込んだ設計が求められる局面に入っている。