Apple、米国内生産でインテル・サムスンと協議浮上 TSMC依存の分散図る

Appleが、主力製品に搭載する中核プロセッサの米国内生産に関して、IntelやSamsung Electronicsとの探索的な協議を開始したことが複数の関係者の話で明らかになった。長年のパートナーであるTSMC(台湾積体電路製造)に次ぐ「第二の選択肢」を確保し、供給網の再構築を視野に入れた動きとみられる。

■ 何が起きたのか 今回の協議はあくまで初期段階だが、iPhoneやMacの頭脳に当たる「Aシリーズ」や「Mシリーズ」チップをTSMC以外で製造する可能性を探るものだ。Appleは現在、先端プロセス半導体のほぼ全量をTSMCの台湾工場に依存している。関係者によれば、Intelのアリゾナ州工場や、Samsungのテキサス州テイラー工場が候補として挙がっているという。特にIntelは、2024年に稼働予定のアリゾナ州新工場で3nm世代の受託製造サービス「Intel Foundry Services(IFS)」の立ち上げを急いでおり、Appleの要求する技術水準を満たすかが焦点となる。

■ なぜ今、この動きが重要なのか 地政学リスクの顕在化が最大の要因だ。台湾海峡の緊張が高まる中、最先端チップの9割以上を TSMC が生産する現状は、Appleのサプライチェーン最大の「単一障害点」とされてきた。市場調査会社ガートナーのアナリストは、「1週間の台湾封鎖で数十億ドル規模の減収リスクがある」と試算する。加えて、半導体製造の米国回帰を促すCHIPS法(半導体支援法)の施行により、連邦政府から巨額の補助金が動き始めたことも背中を押す。Appleとしても、国家安全保障の文脈で米国内生産を強化する姿勢を示すことは、米中対立が深まる中で政治的な意味合いを持つ。

■ 業界構造への衝撃と競合状況 この協議が実を結べば、ファウンドリ業界の勢力図が大きく塗り替わる。現在、TSMCは先端プロセスのグローバルシェアで92%という圧倒的な寡占状態にある。しかし、AppleがIntelやSamsungに一部生産を委託し始めれば、両社は「大口顧客」としてのAppleを足掛かりに、他のハイパースケーラーや自動車メーカーからの受託も拡大できる。一方、Intelにとっては、IDM(垂直統合型製造)からファウンドリへの転換を掲げるパット・ゲルシンガーCEOの戦略が、Appleという最大級の顧客獲得で一気に正念場を迎える。逆にTSMCは、価格交渉力の低下という構造的な脅威に直面する可能性がある。

■ 日本市場・日本企業への影響 この動きは、半導体製造装置や材料で高いシェアを持つ日本のサプライヤーにも無縁ではない。IntelやSamsungが先端パッケージングを含む米国内の生産能力を増強すれば、東京エレクトロンやレーザーテック、JSRなどの装置・材料メーカーにとっては新たな大口顧客の投資が生まれることになる。もっとも、TSMCの熊本工場拡張やラピダス構想といった国内プロジェクトに人材や設備が集中する中、米国での急速な需要増は供給制約や技術流出リスクとのバランスを問う経営課題を突きつける。経産省関係者は「同盟国間での健全な競争と協調の枠組み設計が急務」と指摘する。

■ 投資家・企業戦略視点での考察 ウォール街の投資家は、Appleのサプライチェーン多角化を中長期的なコスト削減と安定供給の両面から評価している。モルガン・スタンレーのアナリストノートは、「IntelがAppleの5%のAシリーズチップを受注するだけでも、ファウンドリ事業の売上高が30億ドル押し上げられる」との試算を示した。一方、Appleにとっては、TSMCという「単一の最強パートナー」と、地政学的リスクを分散する「複数ソース戦略」とのジレンマに直面する。TSMCは歩留まりと生産効率で他社を依然リードしており、粗悪なチップを搭載するリスクはブランド毀損に直結するからだ。Intelの3nmプロセスがAppleの品質基準を満たせなければ、この協議は保険以上の意味を持たない可能性もある。

■ 今後の展望 実現へのハードルは低くない。Intelは2024年中の3nm相当の「Intel 3」プロセスの量産開始を公表しているが、大規模な外販実績はこれから積み上げる段階にある。Samsungは4nmでの歩留まり改善に苦慮してきた経緯があり、テイラー工場での先端パッケージングを含む一貫生産体制の確立は早くとも2026年以降との見方が業界内では大勢だ。AppleのクックCEOが目指す「米国製チップ」の完全実現は、少なくとも2027年から2028年にずれ込むとのアナリスト予測もある。TSMC依存からの脱却を意図するこの静かなる交渉は、半導体覇権を巡る米中対立の縮図として、今後数年をかけて徐々にその全容を現していくことになる。