マスク対アルトマン裁判第2週 争点は創業時の口約束と人材引き抜き工作
OpenAIに対するイーロン・マスク氏の訴訟は第2週に入り、法廷ではマスク氏の提訴動機そのものに厳しい視線が向けられた。Sam Altman CEOらが当初「非営利」を約束しながら営利化を進めたとするマスク氏の主張に対し、OpenAI側は内部資料を提出して反論。さらに、マスク氏がAltman氏を自社に引き抜こうとしていた事実が証言から明らかになり、訴訟の正当性を揺るがす展開となっている。
法廷で露呈した38万ドル寄付の実態
先週マスク氏は証言台に立ち、Altman CEOとGreg Brockman社長から「人類のための非営利AI開発」という理念に共感し、総額3800万ドルを寄付したと述べた。この寄付がOpenAIの設立初期資金の中核を成したことは双方が認めている。しかしOpenAI側の弁護団は今週、当時のメールや社内チャットを次々と開示。OpenAIの主張によれば、マスク氏は寄付時点で将来的な営利転換の可能性を認識しており、「非営利に固執するとは限らない」とのやり取りが存在するという。弁護団はマスク氏が競合AI企業xAIを立ち上げた後のタイミングで提訴したことを指摘し、「訴訟は市場競争を阻害する戦略的行為だ」と主張した。法廷では寄付金の使途と非営利ガバナンスの実態が最大の争点に浮上している。
営利化は裏切りか必然か
裁判の核心はOpenAIの営利子会社設立とMicrosoftからの巨額出資受け入れが「創業理念への背信」に当たるか否かである。マスク氏の弁護士はAltman氏とBrockman氏が2015年の設立時にAGIの独占を防ぎ、成果を広く公開すると確約したと主張した。マスク氏は「OpenAIは人類全体に利益をもたらすと信じたから資金を出した」と証言。一方、OpenAI側はAI開発には数百億ドル単位の計算資源が必要になる見通しをマスク氏が熟知していた点を強調する。2017年から2018年にかけての社内文書では、マスク氏自身が「非営利では資金が足りない」と営利化を提案していた形跡があるという。OpenAIは営利化が生存戦略であり、裏切りに当たらないとの論陣を張っている。
ジリス氏証言で浮上した引き抜き工作の詳細
第2週のハイライトは、マスク氏の側近でNeuralink幹部のShivon Zilis氏による証言である。Zilis氏はマスク氏からAltman氏をテスラまたは別のAI事業に引き抜くよう依頼され、実際に接触した事実を明かした。証言内容は、マスク氏がOpenAIの方向性に不満を抱く以前からAltman氏の才能を評価し、OpenAIを離脱させようとしていたことを示唆する。引き抜き提案は具体的な役職と巨額の報酬パッケージを含んでいたという。この事実は「Altman氏の経営に騙された」とするマスク氏の主張と矛盾し、OpenAI側はマスク氏の訴訟目的が損害回復ではなく競争上の妨害にあるとの主張を補強する材料としている。
日本企業が注視すべき契約ガバナンスの教訓
この裁判は日本企業にとっても対岸の火事ではない。ソフトバンクグループはOpenAIと日本市場向け合弁会社SB OpenAI Japanを設立し、国内企業向けにChatGPT Enterpriseを販売している。またNTT、KDDI、富士通、NECといった通信・IT各社も生成AI事業の拡大に数百億円規模の投資を進めている。本訴訟で問われている非営利から営利への組織転換と出資者への説明責任は、日本企業がAIスタートアップに出資する際のスキーム設計やガバナンス条項に直接影響する。契約書に盛り込む理念遵守条項や転換時の事前協議権が不十分であれば、巨額投資が想定外の方向に流用されるリスクがある。法務専門家は「創業者の口約束を文書化し、逸脱時の制裁金を具体的に定める欧米流の設計が不可欠になる」と指摘している。
残る争点と法廷闘争の行方
最終週に向けて残る主要争点は3つある。第1にマスク氏の3800万ドルが寄付か投資かという法的性質の判断で、裁判官は当時の契約書の文言を精査するとみられる。第2にOpenAIが営利転換時にマスク氏の同意を得る義務があったか否かだ。第3にOpenAIが独自に進める非営利ガバナンスから営利法人への組織再編計画は、裁判所から差し止め命令が出る可能性がある。判決は早ければ数週間以内とアナリスト予測では出ているが、控訴まで視野に入れた長期戦は不可避との見方が大勢だ。法廷外ではOpenAIがSoftBank主導で400億ドル調達を進めており、訴訟の結果は資金調達条件や企業価値評価に波及するだけに、シリコンバレーとウォール街の注目度は極めて高い。