GMOインターネットグループのGMOサイバーセキュリティ byイエラエは、サイバーセキュリティに特化したAI基盤「AIホワイトハッカー byGMO」の構築を発表した。フロンティアAIと自社ホワイトハッカーの知見を組み合わせ、脆弱性診断やインシデント対応を高度化する。生成AIが攻撃手法を高速化させる時代に、防御側が独自AI基盤で対抗する構造変化の一端を示す動きだ。
単一製品ではない「AI基盤」の実態
「AIホワイトハッカー byGMO」は特定の製品名ではなく、同社が今後展開する研究成果やサービスの土台となるAI基盤群を指す。特定のAI企業やサービスとの独占的提携はなく、一般に利用可能なフロンティアAIモデルを、同社が開発した独自の「ハーネス(AIモデルを制御・運用する仕組み)」と組み合わせて活用する点が特徴だ。この設計は、特定の外部モデルにロックインされず、複数のAIを状況に応じて使い分ける柔軟性を意図しているとみられる。
ホワイトハッカーの暗黙知をAIに注入する試み
同社は国際的な脆弱性発見コンテスト「Pwn2Own Berlin 2026」でWindows 11のゼロデイ脆弱性を発見し特権昇格攻撃を実証するなど、実戦的な攻撃検証の実績を持つ。今回の基盤では、こうした世界トップクラスのホワイトハッカーが持つ攻撃手法や検証ノウハウを継続的にAIへフィードバックする仕組みを組み込んでいる。これにより、既知の脆弱性パターンを学習した一般的なAIモデルでは検出が難しい未知の脆弱性への対応力を高める狙いがある。
国内インフラ構築がもたらすデータ主権の選択肢
今回の基盤はGMOインターネットグループが国内に保有するインフラストラクチャー上での構築も視野に入れている。検査対象のシステム情報や検出された脆弱性データなど機微な情報を国内に留めたままAI診断を実施できることは、重要インフラや官公庁などデータの国外持ち出しに対して厳格な制約を持つ組織にとって、現実的な導入条件となり得る。インフラからAI活用までを一元的に国内で完結させる選択肢を提示した点は、サービスとしての差別化要素だ。
攻防モデルのハイブリッド化が切り拓く市場
同社は「AIの網羅性とホワイトハッカーの高度な判断力を掛け合わせる」と表現する。AIが広範囲のコードを高速にスキャンして疑わしい箇所を洗い出し、人間の専門家が攻撃の文脈やビジネスリスクを評価するという分業モデルが具体化する。既存の「GMOサイバー攻撃ネットde診断」シリーズへのAIエンジン統合も発表されており、従来型のルールベース診断からAI活用型への移行が、国内の脆弱性診断市場に価格体系やサービス設計の再考を促す可能性がある。
残る論点:AIがもたらす攻防の加速と規制
Anthropicが2026年4月に「Claude Mythos Preview」で多数のゼロデイ脆弱性を発見した事例を同社が挙げるように、AIによる脆弱性発見の高速化は防御側だけでなく攻撃側にも開かれている。国内でこうした高度なAIセキュリティ基盤が普及するほど、AIを用いた攻撃への備えが社会インフラ全体に求められる。政府のサイバーセキュリティ政策や、AIを活用したセキュリティサービスに対する認証・監査の枠組みが、この基盤の適用範囲を左右する要素となるだろう。