スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)とAppleの研究チームは、動画を粗い情報から細かい情報へと段階的に圧縮する新たな動画トークン化手法「VideoFlexTok」を発表した。動画の抽象的な意味や動きを少数のトークンで表現し、必要に応じて詳細を追加できる構造により、テキストから動画を生成するAIの計算コストを大幅に削減する。ICML2026年7月号に採録された本論文は、動画生成モデルの小型化と長時間化に道を開くものだ。
固定グリッドからの脱却、粗密構造で効率化
現在の動画生成AIの主流は、動画を3次元の格子状に区切ったトークン(最小単位)で表現する手法だ。この方法では、空の青空も複雑な群衆シーンも同じ情報密度で処理されるため、モデルは不要な細部まで学習せざるを得ない。VideoFlexTokはこの前提を覆し、最初の数トークンで物体の動きやシーンの意味といった抽象情報を捉え、後続のトークンでテクスチャなどの詳細を追加する「粗密」構造を採用する。トークン数を動的に調整できるため、単純なシーンでは少なく、複雑なシーンでは多く割り当てる可変長表現が実現した。
小型モデルで巨大モデルに迫る生成品質
研究チームはこの手法をテキストからの動画生成タスクで評価した。VideoFlexTokを用いた11億パラメータのモデルは、従来の3Dグリッドトークンを用いた52億パラメータのモデルとほぼ同等の生成品質(gFVDとViCLIP Scoreで評価)を達成した。モデルサイズは約5分の1であり、学習に必要な計算資源とエネルギー消費を大幅に削減できることを示している。動画生成AIの開発競争において、単純なモデルの大型化ではなく、データ表現の効率化という新たな差別化軸が浮上した形だ。
長時間動画生成の計算障壁を引き下げ
VideoFlexTokのもう一つの成果は、長時間動画生成への対応力だ。81フレーム(約10秒)の動画をわずか672トークンで表現し、これは従来の3Dグリッド方式と比較して約8分の1のトークン数である。トークン数の削減は、後段の生成モデルが処理すべき系列長を短縮し、計算量の二次的な増大を抑える。動画広告の自動生成やバーチャル空間用の長尺コンテンツ制作など、実用的な長時間動画生成の敷居を下げる技術的進展と言える。
トークン化競争が映像AIの次の主戦場に
映像理解と生成の両面で、トークン化手法の革新が相次いでいる。2025年には画像を可変長の1次元系列に変換する「FlexTok」が登場し、2026年3月には動画の軌跡情報をトークン化する「TrajTok」がCVPRに採択された。今回のVideoFlexTokはこれらの流れを動画生成領域でさらに推し進めたもので、研究の中核を担ったAndrei Atanov氏はApple在籍時に本成果に着手している。大手テクノロジー企業と研究機関が協働し、データの圧縮表現そのものを差別化技術として争奪する構図が鮮明になってきた。